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社会がみえる映画レビュー#22

実写版『呪術廻戦』的な実話謎解きアクションホラー『ヴァチカンのエクソシスト』

実写版『呪術廻戦』的な実話謎解きアクションホラー『ヴァチカンのエクソシスト』の画像1
『ヴァチカンのエクソシスト』

 7月14日より『ヴァチカンのエクソシスト』が公開中だ。本作は生涯で数万回の悪魔祓いを行ったという、実在のエクソシストであるブリエーレ・アモルト神父の著書「エクソシストは語る」に基づいている。

 つまりは「実話もの」であるのだが、お堅い印象はほとんどなく、まるで『呪術廻戦』のようなド派手なバトルが楽しめる、エンターテインメント性抜群の“謎解きアクションホラー”になっていたのが嬉しかった。しかも、ただ悪魔を荒唐無稽な存在として描くだけでなく、現実的な視点も忘れない志の高さまで備えていたのである。さらなる魅力を記していこう。

ヒーローだが変人で、しかもかわいいラッセル・クロウ

実写版『呪術廻戦』的な実話謎解きアクションホラー『ヴァチカンのエクソシスト』の画像2
『ヴァチカンのエクソシスト』

 シングルマザーのジュリアは、娘エイミーと息子ヘンリーを連れて、遺産として残されたスペインの古い修道院へとやってくる。そこでヘンリーは何者かに取り憑かれ、しゃがれた声で卑猥な言葉を投げつけ、自らの体を傷つけ、邪悪な顔つきへと変貌してしまう。ローマ教皇の命を受けたアモルト神父は修道院へと向かい、教区を受け持つトマース神父と共に闘いに挑むのだが……。

 まず、本作の大きな魅力は、主人公のアモルト神父の特異なキャラクターだろう。見た目はいかにも堅物だが、オープニングの悪魔祓いでは笑ってしまうほどのハッタリ(?)をするし、悪魔相手にジョークを言うこともあるし、組織の中では“はぐれもの”で慣習や警告に囚われることなく行動する。ユーモラスかつ変人ではあるが、弱きを助けるために全力を尽くすヒーロー然とした信念も持ち合わせているのだ。

 また、大柄な体つきにもかかわらず、イタリアの小柄なスクーターのランブレッタを乗り回す姿はなんだかかわいい。しかも、アモルト神父を演じたラッセル・クロウは初のホラー映画への主演かつ、ひどく迷信深い性格だったそうで、「怖い映画は好きじゃないんです。眠れなくなるから」と語っていたこともあったという。そんなギャップ萌え全開のラッセル・クロウが前蹴りで扉を蹴飛ばしたりする、悪魔祓いの能力以前に物理的にも強い様にも注目だ。

「バディ捜査もの」の面白さ

実写版『呪術廻戦』的な実話謎解きアクションホラー『ヴァチカンのエクソシスト』の画像3
『ヴァチカンのエクソシスト』

 エンタメ性に大きく貢献したのは、『48時間』や『ズートピア』よろしく「バディ捜査もの」の要素があること。アモルト神父は宗教的な信念を持ち合わせると共に、粘り強く対象を調べ考察する“捜査官”の一面を持っており、悪魔の背景にある巨大な陰謀をも暴き出そうとするのだ。

 その相棒となるトマース神父は若く、専門知識がほぼなく経験も浅い、ともすれば足手まといにもなりかねない存在だが、学習意欲が存分にある生真面目な性格で、何より真っ当な正義の心の持ち主。ベテランだが変人なアモルト神父とは好対象であり、はじめはうまく悪魔と立ち回れずにいた彼らが、コンビとして成長していく過程も大いに楽しめるのだ。

 一周回って愉快だったのはクライマックス。もちろんどういうことが起きるのかは秘密にしておくが、やはり派手な見せ場で“おもてなし”をしてくるサービス精神に感服せざるを得なかった。ちなみに、ジュリアス・エイヴァリー監督は米軍兵士たちによるサバイバルアクション『オーヴァーロード』や、Amazonプライムビデオオリジナル映画であるシルベスター・スタローン主演のヒーローもの『サマリタン』など、やはりエンタメに振り切った映画で定評があるので、合わせてチェックしてみてほしい。

悪魔祓いの依頼のうちの98%は……

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『ヴァチカンのエクソシスト』

 劇中では、悪魔祓いの依頼のうちの98%は悪魔以外の原因、つまりは精神疾患などによるものだと言及がされている。さらに、終盤に暴き出される陰謀には、現在に至るまでの深刻な社会問題として議論されてきた、とあるショッキングな事実も関わっていた。

 さらに、アモルト神父、トマース神父、そして取り憑かれた少年の家族、それぞれが抱える“過去”は重いものであり、悪魔はその“心の隙間”を狙うかのように、狡猾で悪どい心理的な揺さぶりをもかけてくる。その悪魔との闘いは、誰もが遭遇しうる悲劇に対しての乗り越え方についての寓話にもなっている。

 劇中では身体が盛大に吹っ飛んだり、1973年の『エクソシスト』をオマージュした上でさらにパワーアップさせたような見せ場など、荒唐無稽にも思える箇所もあるのだが、そうした現実的な視点も十分に備えている、というわけだ。

悪意に立ち向かう希望の物語なのかもしれない

実写版『呪術廻戦』的な実話謎解きアクションホラー『ヴァチカンのエクソシスト』の画像5
『ヴァチカンのエクソシスト』

 最後に、イエズス会の神父であり、制作会社Loyola Productionsの創始者でもあり、本作の制作総指揮に関わっているエドワード・シーバート神父の言葉を引用しておこう。

 「『ヴァチカンのエクソシスト』には、信仰に対してかなり挑戦的な側面があります。罪と悪に光を当てると、私たちの過去と現在における痛みが映し出されてしまう。この映画で描かれる悪魔は、極端で誇張されていると思えるかもしれませんが、私たちの心の乱れや邪悪さには、私たちを支配するほどの力を持っています。祈りの持つ力、悪魔を名指しすること、罪を許すこと、そして悪を征服することが信仰の要だと私は信じてきました。最後に敵が敗北する物語はすべて、最終的には希望の物語なんです」

 そう、やはり本作はエンタメ性を高める目的のもと誇張をしていたとしても、同時に“信仰”について真摯に向き合っている。悪魔だけでなく、世の中の“悪意”そのものに立ち向かう希望の物語としても読み取れるだろう。謎解き、アクション、ホラー、ラッセル・クロウのかわいらしさ、それぞれを大いに楽しみながらも、そのことに目を向けてみるのも意義深いことのはずだ。

『ヴァチカンのエクソシスト』
・原題:The Pope’s Exorcist
・日本公開表記:7月14日(金)全国の映画館で公開
・監督:ジュリアス・エイヴァリー  
・ガブリエーレ・アモルト著「An Exorcist Tells His Story」および「An Exorcist:More Stories」に基づく
・出演:ラッセル・クロウ(『グラディエーター』『ビューティフル・マインド』)、ダニエル・ゾヴァット(『ドント・ブリーズ』『イット・フォローズ』)、アレックス・エッソー(『ドクター・スリープ』『セーラ 少女のめざめ』)、フランコ・ネロ(『ジョン・ウィック:チャプター2』『続・荒野の用心棒』)、ローレル・マースデン(「TVシリーズ「ミズ・マーベル」)、ピーター・デソウザ=フェオニー
・上映時間:1時間43分 PG12

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/08/14 13:00
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