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永田町の議員会館でも上映されたウクライナ映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』

永田町の議員会館でも上映されたウクライナ映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』の画像1
上映会で挨拶するコルスンスキー駐日ウクライナ大使、6月12日、永田町の衆議院第一議員会館にて(大使のFBページより)

 戦時下のウクライナで今年1月5日に上映され大ヒットとなった映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』が今月7月7日から日本でも順次公開されている。

 映画の舞台となるのは現在のウクライナ西部に位置するイヴァーノ=フランキーウシクという街だが、物語が始まる1939年1月当時はポーランド領スタニスワヴフだった。

 ユダヤ人家族が住む家に店子としてウクライナ人一家、ポーランド人一家が引っ越してくる。3家族には同じ年頃の娘がいたが国や民族の違いに親たちは当初、子供たちを一緒に遊ばすことも躊躇する。主人公の一人でウクライナ人の娘ヤロスラワは、音楽家の両親の影響を受けて歌が得意で、ウクライナの民謡「シチェドリク」(キャロル・オブ・ザ・ベル)を歌うと必ず幸福が訪れると信じている。彼女がユダヤ人、ポーランド人の娘たちを誘い、この歌を一緒に歌うことで3家族を隔てる心の壁も消え、しばし平穏の日々が訪れる。

 1939年9月1日のドイツ軍のポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まる。3家族が住む街に最初に入ってきたのはドイツ軍ではなくソ連軍だった。侵攻直前の1939年8月23日に結ばれた独ソ不可侵条約でポーランドを分割し、西半分をソ連が占領することが決まっていたからだ。ソ連軍は軍人だったポーランド人の父親と母親を連行する。

 1941年6月22日にドイツが不可侵条約を破り、ソ連を侵攻すると今度はドイツ軍が街に入ってきて、ユダヤ人の両親が連れて行かれる。この間、ウクライナ人の母親は自分の娘と残されたポーランド人、ユダヤ人の娘を必死に守り抜く。

 1944年になるとソ連が盛り返し、スタニスワヴフを含む西ウクライナも同年10月までに再び、ソ連の占領下となる。ここで物語は筆者が望むハッピーエンドとはならず、今度はウクライナ人の親に新たな試練が降りかかる。

 占領者が変わる度に被害者が変わり、同じ家に住んでいた3家族は代わる代わる被害者となった。

ロシアによるウクライナ侵攻前に完成していた映画

 監督はドキュメンタリー映画で定評のあるオレシャ・モルグネツ=イサイェンコ氏。映画はロシアによる2022年2月24日のウクライナ侵攻前の2019~20年にかけて撮影された。

 脚本家を務めたクセニア・ザスタフスカさんの祖母が第二次世界大戦中にポーランド人家族とユダヤ人家族をドイツ兵から守ったことがあり、ドイツ軍によるウクライナ民族主義者組織(OUN)の処刑シーンや、一番小さいユダヤ人の女の子が外に出てしまったと思ったポーランド人の女の子が外に出た途端にドイツ兵たちからユダヤ人と疑われて捕らえられ、出生証明書を見せるよう求められるシーンは実際の彼女の体験が基になっているという。

 映画の舞台となったポーランド領スタニスワヴフの街は1944年10月までにソ連の占領下に入ると、1991年のソ連崩壊によるウクライナ独立までソ連領となる。

 タイトルとなった「キャロル・オブ・ザ・ベル」。古くから歌い継がれてきたウクライナ民謡「シチェドリク」を1916年、ウクライナのバッハの異名を持つ作曲家のマイコラ・レオントーヴィッチュが編曲した。後にこのメロディーに英語の歌詞が付けられ、英語圏の中でも欠かせないクリスマス・ソングの一つとなる。日本でも大ヒットした米コメディ映画『ホーム・アローン』(1990年)の中でも歌われたので我々も知るところとなった。

超党派の映画議員連盟による映画上映会

  映画の一般公開に先立ち、先月6月12日、永田町の衆議院第一議員会館で超党派の映画議員連盟による上映会が行われた。
 
 上映前に挨拶した駐日ウクライナ大使のセルギー・コルスンスキー博士は「(映画では)ウクライナ人、ポーランド人、ユダヤ人の家族が一つ屋根の下で隣り合って暮らしています。民族、文化が異なる3家族の心を『キャロル・オブ・ザ・ベル』がどのように繋いでいくのかを見てください。そして現在は、ウクライナの領土である、その街に暮らしていた3家族にとって、ソ連とナチス・ドイツによる占領がどれだけの悲惨なものであったかが描かれています」と映画を紹介した。
 
 また、コルスンスキー大使は今回の日本での上映に合わせ、「第二次世界大戦が終わっても、(ウクライナは)ソ連に侵略されたのです。この歌(キャロル・オブ・ザ・ベル)の基になったのは、ウクライナ人がここに存在しているよと、希望を届けてくれるウクライナの民謡です。この映画は激動する時代の流れの中で懸命に生きる家族を描いています」とする一文を公式パンフレットに寄せている。
 
 港区西麻布の在日ウクライナ大使館の入り口には映画のポスターが貼られている。コルスンスキー大使以下、ウクライナ人の館員は映画の中でナチス・ドイツとソ連の理不尽な占領から必死に生き延びた登場人物たちに自らを重ね合わせているのかもしれない。
 
 『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』はアップリンク吉祥寺、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館などで公開中。

永田町の議員会館でも上映されたウクライナ映画『キャロル・オブ・ザ・ベル』の画像2
映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』ポスター

本田路晴(ジャーナリスト)

連邦海外腐敗行為防止法 (FCPA) に関する調査、ホワイトカラー犯罪の訴訟における証拠収集やアセットトレーシングなどの調査・分析を手掛ける米調査会社の日本代表を経て現在は独立系コンサルタント。新聞社特派員として1997年8月から2002年7月までカンボジア・プノンペンとインドネシア・ジャカルタに駐在。その後もラオス、シンガポール、ベトナムで暮らす。東南アジア滞在歴は足掛け10年。

ほんだみちはる

最終更新:2023/07/13 20:00
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