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ツネ脱退の「2700」、お笑い界でも数えるほどしかない本物の天才だと感じた理由

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Getty Images

 お笑い界にまた“悲しい”というか、少し“切ない”ニュースが飛び込んできた。それは「右ひじ左ひじ交互に見て」というフレーズで大ブレークをしたお笑いコンビ「2700」で“動き”を担当していた「ツネ」さんが15日に行われたルミネtheよしもとの出演を最後に同コンビを脱退すると発表し、そしてその言葉通りに15日をもって2700を脱退してしまったのだ。

 脱退の理由としてはツネさんが渡米しスタンダップコメディに挑戦したいというものであり、2700を脱退し「アメリカ挑戦」に力を注いで行きたいとツネさんはコメントしている。相方の八十島さんは脱退について「2年前くらいからツネがアメリカでスタンダップコメディをしたいという思いがあった。『喋りでやりたい』と言っていた。そんな夢を応援したいという思いから脱退を快諾し背中を押した」と、脱退までの経緯を語った。

 僕が2700を初めて目にしたのは「キングオブコント2008」の決勝戦だった。当時のキングオブコントは審査員を「準決勝まで進出した芸人」が務めており、準決勝まで進出した僕たちコンビも会場で審査していたのだ。ある程度顔見知りの芸人がファイナリストにいる中、まったく情報がないコンビが決勝に進出してきたのだ。それが「2700」さんだった。

 情報がない理由としては元々大阪で活動していた芸人ということと、さらに「2700」というコンビを結成してから8カ月しか経っていないというスーパールーキーだったのだ。

 「キングオブコント2008」のファイナリストは優勝した「バッファロー吾郎」さんや当時すでに人気芸人であった「バナナマン」さんや「ロバート」さん「天竺鼠」さんなどがファイナリストであり、正直「2700」さんは優勝する可能性は限りなくゼロに近く、ほとんどの芸人がそこまで期待していなかっただろう。

 しかし僕はその圧倒的な経験値の低さに妙な期待感を持っていたのだ。それはある程度芸人活動をしていると、目に見えない枠のようなものにどうしても囚われてしまうもの。そして一度その枠に囚われると中々ハメを外すのが難しくなり、わかりやすく、万人受けするような笑いの形で安定してしまうのだ。

 しかしこの結成8カ月のコンビならそんな固まってしまった脳みそを破壊してくれるようなネタが見られるかもしれないとワクワクしていた。しかし当時の2700さんはその殻を突き破ることはできず、どことなく経験値の浅さと緊張感が見て取れるようなぎこちないネタであり、結果的に決勝戦最下位となってしまった。このあとの2700さんの快進撃を知らない僕は何故この程度で決勝に来たのだろうかという気持ちになっていた。

 それから3年後の「キングオブコント2011」において、代名詞となった「右ひじ左ひじ交互に見て」と「キリンスマッシュ」という2本のネタを披露し準優勝となったのだ。

 以前は知ることが出来なかった2700さんの才能をこの大会でまざまざと見せつけられた。リズム芸という形はそこまで珍しいものではなかったが、2700さんの場合、明らかに他の芸人とは一線を画している。ネタのリズム感、そしてメロディ、さらにブレーズを用いた笑わせ所、そしてフリとオチと裏切り。どれをとっても今までの芸人がやっていたネタよりレベルが高く、リズムやメロディはいつの間にか頭の中で楽器の音が奏でられるほどしっかりしていて、さらに間奏があることにより、より鮮明に音楽が想像出来る。さらにフレーズや動きも単純で真似しやすく、そしてネタの中身自体もフリ、ボケ、裏切りというお笑いの基本を押さえているので、芸人が見ても面白く構成されている。

 2008年には気づくことが出来なかったが、間違いなく「天才」に分類される芸人である。僕は完全に2700さんのファンになってしまい、フジテレビで放送された「新春ホワイトカーペット」で共演した際、感情を抑えきれず2700さんに直接「本当に面白い」と話しかけてしまった。当時僕の方が先輩だったので明らかに困らせてしまったのだが、そのちょっとした会話でも2人の人柄よさや謙虚さが伝わってきたので、さらにファンになったことを覚えている。

 その時に披露していたショートネタの中で「寿司」を握るネタがあり、ネタの主軸となるボケは嫌いな寿司ネタをどうしても握られてしまうというものなのだが、伏線で「いか」が多いというボケも散りばめられており、最後にそこをつっこんでもうひとつ笑いを足すという素晴らしい構成を見せつけられ、やはり天才なんだと再認識した。

 そんな2700さんだったが、ひとつのネタが爆発的に流行ってしまった為に、視聴者によっては何度も同じネタを見ることが多くなり、徐々に飽きられてしまい、結果的には一発屋のような売れ方になってしまった。

 2700さんは他のメジャー芸人のようにバラエティ番組に出て、トークをメインとして売れるような芸人ではない。それはお世辞にもトークが上手いとは言えないからだ。しかし芸人の売れ方はひとつではなく、一定数存在しているライブをメインとしたネタ職人的な手法をとれば、今もなおその天才ぶりを発揮し続けられたのではないだろうか。

 もちろん誰でもネタ職人と呼ばれる芸人になれるわけではない。ネタ職人と呼ばれる芸人は根本的にネタを作るのが好きで、ネタ作りが苦にならず、とにかく量産できなければならない。さらに同じようなネタばかりを作るのではなく、自分たちのオリジナルな色は保ちつつ、様々なタイプのネタを作り、ネタ尺も自由自在にコントロールする。そして最も大切なのはどのネタも本心から楽しめるという芸人がネタ職人になれるのだ。

 僕は2700さんはネタ職人になれる要素を兼ね備えているように思っていた。しかしたまにテレビや他の媒体で見ていた2700さんは、新しいネタを作ってはいるものの、ピーク時のような情熱は感じられず、慣れや人気の低迷を受けて、少し腐っていたのではないだろうか。

 結成して凄いスピードで賞レースの決勝戦常連になり、そして結果にもつながっていたということは、才能があったのは間違いない。そして芸人からの人気が高かった彼らは、数少ない「芸人的天才」だったことも疑う余地はない。もしかしたら、周りの芸人と関わらず2700単体としてネタ職人として突き進めば違う未来があったかもしれない。もちろん最近の2700さんを見ていなかったので、そのようにしていたら申し訳ないのだが。本当に面白かっただけにこの脱退は勿体ない。

 しかし2700というグループが無くなるわけでは無いのだ。ツネさんは解散ではなく脱退という形をとり、そして残った八十島さんは新しいメンバーを募集するとのことだ。ツネさんという相方の影を追い、新メンバーで納得のいくネタを作るのは容易なことではないだろう。

 さらに視聴者やお客さんも前の2700を追うのは間違いなく、そのハードルを越えるのはかなり苦労するはずだ。さらに新メンバーがそのプレッシャーに潰されてしまうかもしれない。ハッキリ言って新2700の未来は前途多難だ。ただこれは僕のような凡人が考えたこと。本物の天才からすればこの程度の困難は困難ではなく、グループとしてリセットをかけられるというのは、もしかしたらチャンスだと感じているかもしれない。

 僕がお笑いをやっていた時期にファンになった芸人はかなり少なく、そして今でも面白いと思いファンであり続けている芸人は2700さんくらいしかいない。あくまでも僕の個人的な意見だが、とにかく2700さんはお笑い界でも数える程度しかいない本物の天才だ。

 新生2700と信じて、天才の復活を今から楽しみにしている。

檜山 豊(元お笑いコンビ・ホームチーム)

1996年お笑いコンビ「ホーム・チーム」を結成。NHK『爆笑オンエアバトル』には、ゴールドバトラーに認定された。 また、役者として『人にやさしく』(フジテレビ系)や映画『雨あがる』などに出演。2010年にコンビを解散しその後、 演劇集団「チームギンクラ」を結成。現在は舞台の脚本や番組の企画などのほか、お笑い芸人のネタ見せなども行っている。 また、企業向けセミナーで講師なども務めている。

Twitter:@@hiyama_yutaka

【劇団チーム・ギンクラ】

ひやまゆたか

最終更新:2023/08/21 12:00
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