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『キングオブコント』の「観客が女性だらけ問題」を、お笑いファン視点から考える

『キングオブコント』Tverより

 先月開催された『キングオブコント2023』(TBS系)の放送において、「なぜ観客が若い女性ばかりなのか」「審査員が男性ばかりなのはジェンダーバランスを欠いているのではないか」とネット上で議論になった。

 この問題について、一介のお笑いファンの立場から感想を述べてみたい。あくまで個人の感想です、と先に逃げを打っておく。炎上とかしたくない。しないでほしい。本当に。煽る意図はないです。ごめんなさい。

 * * *

 まず、画づくりとして審査員の後ろに若い女性を並べたのは、これはもう演出の時代錯誤として批判されてしかるべきだと思う。見慣れた光景ではあるが、スタジオの配置から考え直す段階にきているのだろう。

 例えば『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)では審査員の後ろは得点モニターなので、こうした配置にはならず、議論も起こっていない。だが、審査員がナナメの位置から漫才を見て審査するいうのは、本来求められる審査の精確性からすれば、不自然ではある。

『キングオブコント』の場合、漫才よりも人物の立ち位置や動き、小道具の配置が重要になってくるので、ステージの正面に審査員席を置きたいという事情がある。審査員の権威性を演出するための記号として、ステージを見下ろす高い位置に置きたいということもあるだろう。その前提での画づくりになるわけだが、これはもう制作側に知恵を絞っていただきたいとしか言いようがない。批判を無視し続ける理由もないだろう。

 8日には、Yahoo!トピックスに「『女性の方がよく笑う』は押し付けられた性役割。『観客は女性、審査員は男性』のキングオブコント、何が問題?【解説】」という記事が掲載され、東京大学大学院情報学環・田中東子教授がコメントを寄せている。

「男性が笑わせて女性が笑わせられる、同じ服を着せて女性をりんごか何かのように『匿名』の存在として背景に並べ、男性には肩書きや名前がある。」とある。

 女性をりんごか何かのように背景に並べることがよくないという意見には大いに同意するし、先に書いたように速やかに改善されるべきだと思う。だが、彼女たちは面白ければ笑うし、面白くなければ笑わないし、超面白ければ手を叩いて笑う。笑い過ぎて足を踏み鳴らしたり、変な奇声を上げてしまうこともある。

 こうした賞レースで審査員たちがしばしば口にするのが「ウケてましたね」という言葉だ。「いやあ、大ウケでしたね」「爆発してましたね」というのもある。お笑いの審査をする上で、ウケ量、つまりは客席の笑い声の大きさが重要な評価軸となっていることは間違いないだろう。

 長く賞レースを見てきて、ズルズルにスベって優勝した芸人はひとりもいない。それは、実感として、いないと断言できる。

 今回の『キングオブコント』は全組大ウケで、そこに差異を見いだせなかったかもしれないが、過去には1本目に大ウケして2本目があんまりだった「ロッチ事件」「チョコプラ現象」という悲しい事象も見られた。『M-1』なんて、スベるときは本当にスベる。

 番組が誰を座らせたかは別として、観客は「笑わせられる」存在ではない。重複になるが、彼女たちは面白ければ笑うし、面白くなければ笑わない。りんごではなく、人間だからだ。

 審査員が男性5人女性0人だったことについては、むしろ公平な人選だと思っている。松本人志と、歴代チャンピオン4人。

 かまいたち・山内健司のときはバナナマンとさまぁ~ずに松本を加えた5人の審査だったが、それ以外のバイきんぐ・小峠英二、ロバート・秋山竜次、東京03・飯塚悟志を審査したのは、準決勝で敗退した芸人100人だった。この投票システムは、公平な審査をする上で万全ではなかったと思うが、「男性には肩書や名前がある」というのは、あくまで結果論であって、これは制作側が意図的にジェンダーバランスを考慮しなかったというわけではないと思う。

 また、その100人の準決勝敗退者を含む、芸人ってほとんどが男性じゃないか。お笑いの世界は男性社会じゃないかという批判もある。

 事実、芸人の大多数が男性である。そんな中、数少ない女性コンビの『M-1』ファイナリスト・ヨネダ2000が昨年のインタビュー記事で、こう答えている。東京NSC在学生の男女比についてだ。

愛「入学したのが390人くらいで、そのうち女性は30人くらいでした。」
誠「それでも多いほうだと思います。」

 NSCは女性にも平等に門戸を開いている。そして、入学試験はどこぞの大学の医学部のように厳しいものではなく、だいたい誰でも入れちゃうユルユルなものだ。

 事実として芸人を目指す女性が少ないので、当然、トップ層の男女比も然るべきものになる。

 では、お笑いの世界が、そもそも女性が参入しにくい、目指しにくい業界なのではないかと問われれば、それは芸人という職業の特性や適性によるものと考えるほうが自然な気がする。

 例えば、プロボクシングという業界があって、プロボクサーという職業がある。いちおう説明しておくと、相手の顔面や腹をブン殴って足腰が立たなくなるまで叩きのめしたほうが勝ち、という競技だ。今、日本に男性プロボクサーが2,000人弱いて、女性プロボクサーは100人に満たない。だからといって、男女平等を目指すべきだから、あと1,900人の女性をどこかから引っ張ってきて人前で殴り合いをさせようということにはならないだろう。それとどこが違うのかな、と思っちゃうけど、なんかちょっとアレな気がするので、これは弱めに言っておく。

 審査員の話に戻ると、じゃあ松本人志はどうなんだという問題もある。彼こそが男社会の芸能界を勝ち抜いて権威を獲得した、男社会の権化じゃないかと。

『4時ですよ~だ』(毎日放送)の出待ちの映像を見たことがある。ダウンタウンの人気は壮絶であり、そのファンは見渡す限り女性だった。わざわざ自分のお金を使って交通費を捻出して、わざわざ自分の時間を使って会場から出てくるのを待って、わざわざ自分の手足を使ってプレゼントを渡そうとしていたあの熱狂的な女性ファンたちを見て、誰が「笑わせられている」と思うだろう。上京後はさておき、少なくともダウンタウン東京進出の背中を押したのは、間違いなく若い女性たちだ。

 日本建築学会環境系論文集第79巻第702号に「お笑い劇場利用者の類型化および利用者行動の劇場間比較」という論文がある。その中で、お笑いライブ系の劇場は「若い女性が友人との親睦を兼ねて利用することが多い劇場である」と定義されている。

 今も昔も、ある程度の女性ファンに支持されないと、芸人は賞レースどころか表舞台に顔を出すことすらできない。女性たちの評価軸によって、お笑いの世界の勢力図が形作られていることは明らかだ。むしろ、賞レースの予選や決勝の審査員が、芸人界が女性人気一辺倒にならないためのバランサーとしての役割を担っているのが実情である。

 こうしたジェンダーに関する議論で私が恐れるのは、女性ファンたちの「好き」が否定されやしないかということだ。

『キングオブコント』のジェンダーバランスがおかしかったよね、お笑いの世界っていびつだよね、女性が差別されているよね、それなのにお笑いが好きなの? あなた、女性なのに?

 ただ笑いたくてお笑いを見ている女性たちに、そんな目線が向けられることだけは、避けなければいけないと思う。そして、その責任を負うべきはやはり、テレビ局の演出だと思う。

 彼らもプロなのだから、今の時代に向けて「これで文句なく、みんな笑えるだろう」という番組を作ってほしい。TBSさん、いつも面白い『キングオブコント』をありがとう、がんばってくれ。

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/11/16 15:14
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