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『僕がアップルで学んだこと』著書・松井博氏インタビュー

アップル元社員語る「過酷な社内政治とクレイジーな要求」

松井 朝早い人が多いです。基本的には9時出社で、6~7時に出社する人もいます。フレックス制ですが、10時に出勤する人は少ないですね。出社が遅い人は独身者に多い。家族がある人は、子供の学校が7時半くらいに始まりますから、子供を送ったあと、そのまま出社する。通勤時間は車で15~20分というのが普通ですね。シリコンバレーはかつて果樹園が広がっていたような田舎町で、ほかに何もなかったところです。今だって車で20分も行けば何もない。山に囲まれた盆地のようなところで、基本的に田舎。アップルの本社があるところも昔は果樹園でした。日本でシリコンバレーと同じ雰囲気を持った土地がどこかといえば、筑波あたりをイメージすればいいかもしれません。若者なら、「こんな刺激がないところには住めない」という人もいます。ただ、家族持ちにとっては、学校教育の環境も充実していて住みやすい。移民も多く、ニューヨークに匹敵するほどです。そのため、子供たちは2カ国語話せることが普通なんです。3カ国語、4カ国語もちらほらいる。それだけアメリカの中でも、特殊な環境なんです。普通の公立高校からもハーバード大学などの有名大学にたくさん入学しますから、ここで子供に教育を受けさせたいという人も多い。エンジニアばかりが集まることによって、より特殊な環境になっているのです。

――シリコンバレーでは昼夜問わず、働く人が多いというイメージも強いですが。

松井 もちろん、そういうときもあります。ただ、基本的にはプロジェクトベースで仕事をしているので、ピーク時は忙しいけれど、それ以外は一般的な勤務と同じです。製品のプロジェクトのピークは、デザイン、ハード、ソフトと順々に迎えるので、忙しくなるサイクルは担当者それぞれ違いますが、各グループともピーク時には本当によく働きます。仕事が好きな人が多いですね。しかし、それが長く続けば、もちろんアップルの人間でも「また今日も仕事か……」と思うわけで、そのあたりのメンタリティは日米で大きな違いはありません。ただ、大きく違うのは、シリコンバレーの精神風土が明るいことです。まず転職にも困らないから、会社で何かあっても「嫌になったら、次に行けばいいや」と考えればいい。その分、気持ちを軽く持ちやすいといえます。また雨が降らない。いつも晴れていて、仕事でクヨクヨしていても空を眺めれば、気分はスカッと晴れてしまう。気候がジメジメしていてますます気が滅入るということは、ほとんどありません。

仕事のほとんどは社内政治

――松井さんは16年ほどアップルに勤務されていましたが、それだけアップルは居心地がよかったのでしょうか?

松井 アップルは、ヒラ社員にとってはすごくいい会社だと思います。ただ、上層部になればなるほど、ハードな環境が待ち受けています。時には神経もやられる。私のシニアマネージャーという肩書は、日本企業でいえば部長や本部長クラスだと思うんですが、仕事のほとんどは社内政治でした。その意味では結構つらかったです。ずっと熱湯風呂に我慢して入っているような感じでしたね。

――アップルといえば、外から見ると、社内政治とは無縁のようなイメージなので、意外な感じがします。

松井 真逆ですよ。社内政治は本当にキツい。マイクロソフトもすごいらしいですが、それに負けないくらいすごい(笑)。要は、良い意味で「いかに社内で目立つか?」なのです。日本人の場合、「ちゃんと良い仕事していれば、上司が認めてくれて、いつか報われる」というイメージですが、アップルにはそうした雰囲気がない。自分で自分を売るしかないのです。この「自分の売り方を、どう工夫するか?」がなかなか難しい。自著にも、いかに自分の部署をマーケティングするのかについて一章割いて書いたんですが、私がいた品質保証という部署は、うっかりしていると悪者にされやすい。市場で問題が発生すると「なぜ事前に見つけられなかったのか?」と問われるわけですから。そんな問題が出たときに誰のせいにするのか、その駆け引きみたいな話がたくさんあるわけです。自分のせいになったらたまらない。うっかりその失態をジョブズに覚えられたら最悪です。いかに素早く自分の身を安全圏に置いて、誰を指さすのか。それが重要になってきます。

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