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“絶対王者”吉田沙保里はなぜ生まれたか──日本レスリング界の強さの秘密を探る『日本レスリングの物語』

 黎明期から世界レベルへの発展に至るまでに、レスリング界に尽力した人物が八田一朗だ。早稲田大学レスリング部の初代主将であり、卒業後は大日本アマチュアレスリング協会を設立。私財をなげうちながら、レスリングの強化だけに人生を費やした。その人柄もユニークそのものの八田は、「ライオンとにらめっこをさせる」「合宿中は選手の夢精や自慰まで管理する」「将棋の名人の話を聞く」とハチャメチャな練習メニューを考案し選手を鍛える。「豪放」というイメージがふさわしいその人柄で、後年は参議院議員にも立候補した八田、1983年に永眠するまで日本レスリング界を牽引していった。

 一方、女子レスリングの歴史は80年代から始まる。黎明期は女子プロレスブームにあやかりながら選手を集めなければならないほど注目度は低かったが、2004年のアテネ大会よりオリンピック種目に認定されるやいなや、吉田沙保里、伊調馨の2人の金メダリストを送り出す。さらに2008年北京大会、2012年ロンドン大会でもこの2人は金を獲得し前人未到のオリンピック3連覇を達成した。この女子レスリングの歴史を支えた人物が福田富昭だ。スパルタ練習を行いながら選手を強化し、マスコミをうまくリードしながらその普及に尽力。福田もまた八田と同様に、人生のすべてを女子レスリングに投じた人物だ。

 新潟県の山奥の廃校を私財を投じて購入した福田は、そこを女子レスリングの合宿所兼道場としてしまった。「まわりには誰もいないから、いくらしごいて泣き叫んでも大丈夫」と福田が意図したように、そこでの練習は苛烈を極め、女子選手に対し、バットや竹刀で殴られるのは当たり前というトレーニングを課した。

 また、女子レスリングの代名詞となったアニマル浜口・浜口京子親子の知名度も、福田の功績によるところが大きい。実は、アニマル浜口はボディビル出身であり、レスリングの技術はほとんどない。そんな彼を福田は無理矢理コーチに据え、メディアの注目が集まるように仕向けた。アニマル本人もはじめは当惑していたものの、福田からの「選手全員に向かって、マスコミの前でがーがー吠えろ」という指示を忠実にこなし、いつの間にか「気合だ!」という名言まで誕生。女子レスリング界に欠かせない存在となっていったのだった。

 次のリオデジャネイロ五輪でも、日本レスリング界の活躍は世界中の注目を集めるだろう。その強さの陰には、八田一朗と福田富昭という2人の男が積み上げてきた類まれなる努力があることを思い出してほしい。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2012/10/01 18:00
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