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ラジオ批評「逆にラジオ」第21回

無礼講的な対話関係がつくり出す異文化交流の宴『吉田照美 飛べ!サルバドール』

 以上のように、『飛べサル』における外見的に最も明快な対話構造はこの「国籍を越えた意見交換の場」という部分にあるのだが、実はさらに重要な対話関係が、それとは別の場所にある。それは、番組アシスタントを務める女子アナウンサー・室照美の存在である。北陸放送から今年文化放送に入社したばかりの彼女は、品のあるトーンを保ちながらも吉田に対しコンスタントに意外性のあるコメントを返す。そのナチュラルなセンスと肝の据わりっぷりは、間違いなく吉田をムキにさせる相手としてふさわしい逸材である。

 たとえば毛量の話題になった際には、「でも62歳にしてはいっぱい生えてると思います」と非情な条件つきの褒め言葉をやさしい口調で投げかけ、吉田の絵が三軌展で受賞したという事実を前に「また絵が高くなりますね!」と邪心のないトーンで明るく言い放つ。かと思えば、「何か好きなブランドとかあったら言っといたほうがいい。誰かくれないとも限らないから」というフリに対し、「ミュウミュウのバッグが欲しいです」と即答。その鮮やかな答えを受け、すっかり他人事だと思って油断して「みんな聴きましたか?」と喜んでいる吉田に、「照美さんに言ってるんですよ!」と急角度の切り返しでたじろがせるその当意即妙っぷり。時にかなり厳しくツッコんでいく吉田のスタンスに対し、対等あるいは一枚上手の答えを返す彼女の存在は、早くも番組を盛り上げていく重要な装置として機能している。もちろんそんな答えを呼び込む吉田の、「誰かくれないとも限らないから」という魔性の誘い水が、対話の取っかかりとして見事に効いているのだが。

 さらにこの番組には「飛び出せ!子ザル」という、若手リポーターに番組の街頭宣伝をさせるコーナーがあり、ここでの吉田は、後輩アナウンサーらに無理難題を言いつける「無茶ブリの鬼」と化す。しかし、リポーター側も時に反抗心を露わにし、泣き言を言ったりフリを無視したり、時には吉田からの指示を遮断するためイヤホンを外すなどといった暴挙に出たりもする。このコーナーは、そうやってムキになった結果として思いがけぬ言動が飛び出すことでそれぞれのキャラクターが立ってくるという、いわばキャラ開発のための仕組みにもなっており、吉田は自分自身だけでなく、相手をムキにさせる能力にも長けている。そして互いが熱くなったところで初めて熱湯を掛け合うように対等な、無礼講的な笑いが生み出される。

 こういった対話的な構造にあふれた番組づくりの基盤には、そもそもスタッフとパーソナリティー間の対話的な信頼関係が必要不可欠である。両者が生ぬるく支え合うような関係ではなく、互いに相手を出し抜いてやろうと常に狙っているような緊張感のある対話が、ここでは番組という作品を通じてとり交わされている。そして何よりもまずそういう空気をつくり出すのが、ずっと一線を張ってきたラジオパーソナリティーとしての吉田の根本的な強みであり、『飛べサル』は結果として吉田照美でなければ成立し得ない番組になっている。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)

「逆にラジオ」過去記事はこちらから

最終更新:2013/06/14 19:18
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