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鬼才キム・ギドクの“秘蔵っ子”インタビュー

友好か忠誠か――『レッド・ファミリー』北朝鮮スパイ一家が問いかける“家族の意味” 

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 美しい妻、頼りがいのある夫、優しい祖父、かわいい娘。一見、誰もがうらやむ理想的な仲良し家族なのだが、彼らの正体は家族を演じる4人の北朝鮮スパイだ。互いの行動を監視し合いながら、脱北して韓国へ逃げた裏切り者を抹殺する任務を日々遂行していた。

 そんなニセ家族の隣家で暮らしているのは、自分勝手な夫、金遣いの荒い妻、疲れきっている祖母、いじめられっ子の息子という、韓国のリアルを表現したかのようなダメ家族。夫婦はいつもケンカばかりしており、その怒号はニセ家族の家にまで響くほどだった。しかし、ダメ家族が起こすトラブルに巻き込まれていくうちに、4人のスパイたちには少しずつ変化が生まれていく。本物の家族の絆が芽生えようとしていたのだ。そんな中、4人に下ったミッションは、隣の家族の暗殺だった――。

 斬新な設定と先が読めないストーリー展開で観客の心をわしづかみにし、「第26回東京国際映画祭」(2013)で観客賞に輝いた韓国映画『レッド・ファミリー』。製作・脚本・編集を手がけたのは異端作で数々の映画賞を受賞した鬼才キム・ギドクだが、監督としてメガホンを握ったのは新鋭イ・ジュヒョンだ。フランスで映画とデジタル・アートを学んだイ・ジュヒョンは、『レッド・ファミリー』が長編映画監督デビュー作となったが、完成した本作を見たキム・ギドクは「私が予想した以上の出来栄え」と絶賛。韓国映画界の次代を担う人物と期待が高まっている。そんなイ・ジュヒョン監督に、本作の見どころや制作秘話、そして朝鮮半島の分断問題や日韓関係について、幅広く話を聞いた。

――監督は「最初に脚本を読んだときに大きな感動があった」そうですが、その“感動”はどんなところから受けたのでしょうか?

イ・ジュヒョン監督 初めて脚本を読んだとき、この物語の中心テーマは“人間味”だと思いました。ほかの監督が撮っていたら、思想の問題を押し出した作品にしたかもしれませんが、体制の中の人間はどうやって体制に抵抗するのかということに主眼を置きました。そこに生きる“人間”を描きたかったんです。例えば劇中で北のスパイたちは、北に残してきた自分の家族のために演技をしていて、自分たち同士で互いに何かをしてあげたくても、そこに愛情が生まれていても、そうではないように振る舞う。生まれ育った“体制”がそうさせるんです。

 すべての人間は、何か見えない共同体の体制や思想の中にいると思います。宗教、差別を受けるようなシステム……その中で葛藤し、あるいは抜け出そうともします。そんなところに“人間味”があると思うんですよ。

――劇中、北のスパイは残虐でありながらも、コミカルな一面も見せていますよね。例えば、言葉遣いも、自分たち同士でしゃべっている時は北朝鮮風の発音ですが、外で話すときは韓国風の発音に変わっています。

イ監督 彼らは家の外に一歩出たら、仲良し家族としての演技をしています。でも、家の中に入れば豹変する。体制の中の人間になるわけです。同じハングルでも、発音やしゃべり方は南北で違いますからね。この作品で俳優たちは、演技に演技を重ねています。南の家族を真似する最後のシーンなんて、演技の演技の演技をしていることになりますよね。個人的にはそういう構造が好きなので、観客のみなさんには注目してほしいところです。

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