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【おたぽる】

「森見登美彦先生の変化が一番見られる作品」!? 『有頂天家族2』プロデューサー&P.A.WORKS代表・堀川氏インタビュー

―― 私も森見先生の作品が好きで、ブログも読ませてもらっていますが、14年前後は更新も少なめでかなり七転八倒されていた印象があります。

堀川 1巻は若さと勢いでグワッと書いたというか、うねる波のような面白さがあったんですが、『二代目の帰朝』では、全然テイストが違いますよね。

 これだけ長期にわたる作品になると、それぞれの巻に、その当時の森見先生の小説家としての考え方が色濃く出ているので、先生を知る上で面白い作品になっていますよね。第三部の完結が先に延びれば延びるほど、今の森見先生とはまた違う作風が味わえるかもしれません。小説家森見先生の変化が、同じ作品の中で、作品の内容にリンクして見られるのが『有頂天家族』だと思います。

『二代目の帰朝』は父親と息子の関係が、一つテーマになっています。父の赤玉先生と確執を抱えている二代目がいる一方で、父親をとても尊敬している下鴨家の兄弟がいる。その中でも矢一郎は、父亡き後自分が家長として下鴨家を背負うためには父の模倣、つまり偽右衛門になるほかないと思っているが、それで家族を救えるのか。一方、天狗の父の生き方を拒絶する二代目は、大人になり切れず弁天をも傷つけてしまう。父親へのアンビバレントな感情を抱きながら大人になる時期の男の子が描かれていますよね。

 また、森見先生のインタビューなどを読んでみても、学生時代に小説家としてやっていけるかと迷っている時期に、とりあえず一回イギリスに行ってみたりと、二代目と重なっている部分があるじゃないですか(笑)。

 少年が自立して、いっぱしの男になる成長譚が『有頂天家族』で描かれている一本のラインだと思います。二代目も矢一郎も森見先生の血を分けた分身なんだろうなと。ですから『有頂天家族』に登場する少年たちが今後もドタバタと人間臭く(?)阿呆な行動を繰り返しながら自立して大人になっていく姿を読みたいと思うし、そこにはやはり森見先生が、小説家として、ひとりの少年として乗り越えてきた奮闘記が色濃く出るんじゃないかなと。

「森見登美彦先生の変化が一番見られる作品」!? 『有頂天家族2』プロデューサー&P.A.WORKS代表・堀川氏インタビューの画像3第6話「有馬地獄」先行カット

―― 1巻を読み直したんですけど、やはり20代の森見先生と30代半ばに出された2巻での森見先生は大分違うと感じられて非常におもしろかったです。ただ、TVアニメにするぞと、プロデューサーとして読まれていかがでしたか?

堀川 物語後半に大スペクタクルがあって、映像表現の物理的な大変さはこの先どんどんエスカレートしていくんだろうな、これは大変だなと……。更に2巻の巻末に書かれた『第三部予告』を読むと、ムチャクチャ楽しみでもあり、本当に完結するのかこの壮大な物語は(笑)と不安に思わないでもないわけで。

 ただ、TVアニメ第1期があったことで“自分は映像を考えながら小説を書くと、書けなくなってしまった”と、森見先生がインタビューに答えられていて。先生は文章だけで表現するので、映像化しやすい、しづらいということは邪魔になるということなんでしょうが、僕らのような映像で表現する者にはそういう感覚って全くなくて。

 アニメの脚本がそうだと思うんですが、書かれている端から頭の中で映像に変換していく、むしろ映像で表現できるものしか脚本にしない。でも先生は文章のリズムとか、インパクトのある言葉を選択して書かれていくのでしょうから、表現で扱う情報量が大きく違います。そこは監督が頭をひねらなきゃならないところだと思うんです。あるシーンを描く時に矢三郎がタヌキか人間、どっちの姿なのか。映像ではちゃんと決めなきゃいけないけど、小説では読者の解釈に委ねればいい。

 1期で僕らを悩ませた「ゴージャスチキン」も言葉のインパクトに匹敵する面白さを映像で提示する必要があるけれど、映像は明確なイメージを固定させてしまうので、想像する余地を奪うことになる。それが小説の読者にとって良いことかは難しい問題です。

 先生は制作スタッフに完全にゆだねてくださる方で、僕らとしては文章表現から映像表現への挑戦として楽しめる部分でもあるんです。先生からは「こうしてください」と言われることもほとんどないですし……逆に僕らから「これはどういうものでしょうか?」と聞いても笑ってあまり答えてはくれないし(笑)。

―― 任しているから答えないのか、それとも本当に考えてなかったのか(笑)

堀川 考えていないフリはされますね(笑)。「特に意味はないんです」って言いながらゆだねてくださるので。僕はファンだから、そういうところを聞きたくてしょうがないんですが、吉原監督は聞かないんですよ。もうそれは自分の中で解釈ができているんです。

 あるインタビューで森見先生は、そこが監督の非常に好きなところだと仰っていて。監督の、裏では考えぬかれた解釈を表に出さずに作ってくれるところが好きだと言われていて、それは面白いなと。

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