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【目黒虐待死事件】児童相談所はなぜ、結愛ちゃんを救えなかったのか――

子どもたちを救うはずが、ますます不幸にさせる? “限界寸前”児童相談所の実情とは――

ルポ 児童相談所: 一時保護所から考える子ども支援(ちくま新書)

「児童相談所」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

 虐待を受けた子どもたちの相談や、養育困難な家庭への対応、そして非行や虐待によって家庭にいられなくなってしまった子どもたちを一時的に保護するといったことを行っている児童相談所の仕事は、社会からはなかなか見えにくくなっている。だが、その世界に一歩足を踏み入れると、そこには驚くべき現実が広がっていた。米・不動産ファンド「モルガン・スタンレー・キャピタル」出身で、NPO法人「Living in Peace」を設立し、子どもたちの支援を行っている慎泰俊による著書『ルポ 児童相談所 一時保護所から考える子ども支援』(ちくま新書)から、その実態を見てみよう。

 本書を一読して驚かされるのは、児童相談所における子どもたちの扱いだ。虐待、貧困、非行などによって、家庭での養育が困難となった子どもたちが一時的に預けられる「一時保護所」では、一昔前まで体罰が当たり前だった。現在では体罰こそ減ったものの、「外出禁止が徹底され、学校にも行くことができない」「脱走防止のために、窓を開くこともできない」「私物はおろか、服も持ち込めない」「男女のトラブルを避けるため、きょうだいであっても会話ができない」「連絡先交換を防ぐため、紙の使用も管理されている」など、すべてが「トラブル防止」の名のもとに、徹底的に管理されている。在所経験のある人々は、この施設について口々に「あそこは地獄だ。思い出したくもない」「刑務所のような場所」と表現。さらに、一部の保護所では、トラブルを起こした子どもに対しては「個別対応」という名目で、4畳の個室での隔離生活を強いる。まるで、独居房のようだ。

 かつて、一時保護所は非行少年の入所比率が高く、暴力や規律で徹底的に抑えつける必要があった。また、近年は虐待や精神障害で入所するケースが多く、心の傷がちょっとしたことで爆発してしまうケースもある。そんな、さまざまな問題を抱えた子どもたちを1カ所で集団生活させるため、このような抑圧的な方法を用いて管理しているのだ。

 もちろん、神奈川県の中央児童相談所のように「子どもを守るための場所なのだから、子どもが逃げ出したがるような場所であるほうがおかしい」と、子どもに寄り添った一時保護所を開設している自治体もあるが、抑圧的な一時保護所は少なくない。その原因を、慎は、職員数の不足とともに、職員の子どもたちに対する想像力の欠如に見ている。慎自ら、携帯電話を切って一時保護所で2泊3日を過ごしたところ、言いようのない閉塞感を味わったという。シフト制で働き、仕事が終われば帰宅する職員たちには、その閉塞感が理解できないようだ。

 また、児童相談所そのものに目を移してみると、別の深刻さが浮かび上がってくる。

 虐待を受けた子どもの支援、養育困難な子どもやその家庭の対応にあたっている児童相談所では、常に職員一人当たり100件あまりの対応を行っている。2009年に1,101件だった相談件数は、15年には10万3,260件と、およそ100倍にまで増加。虐待数そのものが増加しているのか、通報しやすい環境が整ってきているのかは定かではないが、職員の負担は増加の一途をたどっている。この15年間で、児童福祉司の数は1,230人から2,829人に大幅増員されたが、相談件数の伸びには追いついておらず、「あと2~3倍の人員が必要」というのが現場の声。多忙のあまり、深刻な虐待を見逃し、虐待死事件に至ってしまったという、取り返しのつかないケースも報告されている。

 このような状況を打破すべく、慎が提言するのは、行政による子ども向け対策の抜本的な改革とともに、3~4年のローテーションで部署を異動する、役所内の人事制度の見直しだ。また、民間でも、児童相談所に頼るばかりでなく、地域の努力によって状況を好転させることはできると説く。

 虐待を受ける子どもたちに罪はない。しかし、増え続ける虐待によって職員が忙しく目配りできない環境や、一時保護所の抑圧的な対応は、子どもたちを救うばかりか、ますます不幸にさせていく。行政と民間がこの問題に向き合って根本を改善しない限り、すべての子どもたちが安心して生きられる社会はやってこないのだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

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