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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.509

人類史上最大の“タブー”に挑んだ男の実録映画!! 伝統文化と合理性との狭間を生きる『パッドマン』

“パッドマン”ことラクシュミ(アクシャイ・クマール)は生理用ナプキンの開発で、多くの女性たちを月経タブーから救うことに。

 禁忌/タブーの語源を知って、驚いた。タブーとは、ポリネシア語で「月経」を意味するタプ(tapu)がその語源となっていた。ポリネシア地方に限らず、世界中で月経は古くからタブー扱いされてきた。会話にすることも憚れ、「あれ」「女の子の日」などと今でも呼ばれている。インド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』は、そんな人類史上最大のタブーに果敢に挑んだ実在の男性を主人公にしたヒーロー物語となっている。

 日本でも月経は“穢れ”と見なされ、タブー扱いされてきた。生理中は神社を参拝するべきではないなど、タブー視する習慣は現代でも根強く残っている。古くから神々への信仰が日常生活と密接に結びついてきたインドの地方部では、なおさらその傾向が強い。『パッドマン』の物語は2001年から始まるが、主人公ラクシュミは月経を頑なにタブー視する周囲の偏見と日夜闘い続けることになる。

 インドの田舎町で暮らすラクシュミ(アクシャイ・クマール)は美人で慎ましい妻・ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)との結婚式を終え、幸せの絶頂だった。町工場に勤めるラクシュミは、タマネギを刻むたびに涙を流す妻のために自動野菜切り機を考案。また、妻と一緒に乗れるように自転車を2人乗りに改造するアイデアマンだった。妻を喜ばせることがラクシュミのいちばんの幸せだった。

 新婚中のラクシュミは、しばらくして不思議な出来事に遭遇する。食事の時間になっても、妻・ガヤトリは奥の部屋に入ったまま姿を見せようとしない。いつもは同じベッドで眠っているのに、なぜか一人で廊下で寝ようとする。体の具合が悪いのかと思って、ラクシュミが手を伸ばすと、極度に嫌がる。ガヤトリは生理中で、男性と一緒に食事をすることも、同じ部屋で寝ることも禁じられていたのだ。一緒に暮らしている実母や未婚の妹たちもそうやって過ごしてきたことを、男のラクシュミは結婚したことで初めて認識する。

愛する妻・ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)のためにナプキン研究を始めたラクシュミだが、周囲から変態扱いされてしまう。

 合理的に物事を考えるラクシュミには、月経に関する風習は納得できないことが多かった。いちばん気がかりなのは、妻が生理の処理に汚れた古布を使っていることだった。市販されている生理用ナプキンは高価すぎると、妻は使おうとしない。それならばとラクシュミは閃く。安くて衛生的な手づくりナプキンを、妻にプレゼントしようと。ここからラクシュミは異常なまでの情熱を燃やし始める。漏れが生じる、ジャストフィットしないなど自家製ナプキンは難問が山積みだった。研究のために多くの女性にモニターになってほしいと声を掛けるラクシュミは、町内ですっかり変態扱いされるはめに。男が生理に関して興味を持つことがおかしいというのだ。愛する妻さえも「恥をかくことは、死ぬことよりつらいわ」という言葉を残して実家へと帰ってしまう。

 挫折を乗り越えてこそ、真のヒーロー誕生である。妻に去られ、町で噂の変態男となってしまったラクシュミは、より本格的にナプキン研究に取り組み始める。生理用ナプキンは綿ではなくセルロースファイバーで作られていることを、米国のメーカーに問い合わせることで初めて知る。欧米にはナプキン製造機が存在するが、輸入するのは容易ではない価格だった。ラクシュミは持ち前のDIY精神で、安価なナプキン製造方法を発案する。問題は男性のラクシュミが作ったナプキンを、どうやって女性たちに使ってもらうかだった。デリーの大学に通う知的な女性パリー(ソーナム・カブール)はラクシュミのナプキンを気に入り、製造&販売に協力する。パリーのナイスアシストによって、ラクシュミのお手頃価格のナプキンはインドだけでなく世界各国で大評判となっていく。

ラクシュミの顧客第1号となった女子大生パリー(ソーナム・カブール)。発明コンペに参加するようにラクシュミに勧める。

 本作を撮り上げたのは、インド生まれの主婦が英語を学ぶことで明るく社交的になっていく姿を描いた『マダム・イン・ニューヨーク』(12)の女性監督ガウリ・シンデーの夫であるR・バールキ監督。『マダム・イン・ニューヨーク』ではプロデューサーを務めていた。『マダム・イン・ニューヨーク』は旧態依然としたインド社会を風刺コメディ化していたが、インド生まれの英雄談『パッドマン』は男性視点による女性賛歌ムービーだと言えるだろう。

 インド映画らしく、美女たちが歌い踊るミュージカルシーンの華やかさに魅了される。ヒンドゥー教ならではのお祝いやお祭りの場面も多数あり、昔ながらの血縁や地縁がインドの田舎町ではしっかり息づいていることが分かる。ナプキンが原因で別居することになるラクシュミとガヤトリの夫婦だが、それまではインドの神々に見守られながら心豊かな生活を送っていた。だが、神々と共生する世界には、理不尽なタブーも少なからず存在する。月経タブーは本来は感染症を防ぐなどの意味合いがあったはずだが、いつの間にか女性を蔑視する妄信的なタブーとなってしまっていた。

 ラクシュミの作った廉価なナプキンによって、インドの女性たちは生理中も仕事を休まずに済むようになった。それだけでなく、ナプキンの製造と販売を女性たちが請け負うことで、新しい雇用を生み出すことにも繋がった。パッドマンことラクシュミは、多くの女性たちを月経タブーから解放しただけでなく、経済的にも自立させることになったのだ。ナプキンの普及に尽力してくれたパリーへの感謝の気持ちを込めて、ナプキンの商品名を「パリー(妖精)」と名付けるラクシュミだった。一方、実家で暮らしていた妻・ガヤトリにも夫の成功談が伝わり、ラクシュミを変態扱いしていた人々は態度を豹変させることになる。

 洗練された都会育ちのパリーはIT大国となった現代インドの象徴、古風で奥ゆかしい妻・ガヤトリは悠久なるインドの歴史そのものだろう。頭の固い保守的な男性社会を笑い飛ばし、女性たちの社会進出を祝うハレやかな映画『パッドマン』。タイプの異なる2人の美女の狭間で、ラクシュミは最後にどんな決断をするのだろうか。
(文=長野辰次)

『パッドマン 5億人の女性を救った男』
監督・脚本/R・バールキ
出演/アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカー・アープテー、アミターブ・バッチャン
配給/ソニー・ピクチャーズエンタテイメント 12月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
http://www.padman.jp/site/

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最終更新:2018/12/10 14:03
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