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サルの脳みそ、ゴリラの肉、胎盤餃子……辺境探検家が挑む食の冒険『辺境メシ』

辺境メシ』(文藝春秋)

『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』(文藝春秋)は、辺境探検家でノンフィクション作家・高野秀行氏が「食べ物」を書くと、こうなるのか! と驚かされる食のエッセイだ。「ヤバそうだから食べてみた」というタイトル通り、高野氏は明らかにヤバそうな食べ物に出会うたび、なんでもどんどん口へと放り込んでいく。特に現地の人に勧められたら、断らない。

 コンゴでは長距離バス内でサルのくん製肉が回ってきて、まるでみかんかせんべいをおすそ分けするかのように、車内のお客が一人ずつガブッとかみちぎっては隣の客へと回す。そこで高野氏も躊躇なくかぶりついたところ、乗客から歓声が上がったという。「なんでも食べられる」は、現地に溶け込むための最重要スキルのひとつなのだ。

 高野氏にとって、「食の安全基準」は現地の人が食べているかどうか。「どんなにゲテモノに見えても地元の人が食べてたら大丈夫」とのこと。ほんとかな?

 本書には、水牛の髄液胃袋包みカリカリ揚げ、インカ帝国公式エナジードリンク、羊の金玉と脳味噌のたたき、口噛み酒、胎盤餃子、カエル丸ごとジュースなどなど、読んでいるだけで、ひえーっと悶えるような食べ物が出てくる。

 今でこそ「ヤバそうだから食べてみよう」となんでも食べる高野氏だが、意外なことに、幼いころは好き嫌いが多かったらしい。モツもキノコ(特にしいたけ)も、香辛料も外国のチーズもダメ。そんな高野氏に「食ビッグバン」が起きたのは、早稲田大学探検部の仲間と、謎の怪獣モケーレ・ムベンを探すべく、コンゴ共和国の密林を訪れてから。

 コンゴの密林には、昔からゴリラを食べる習慣があった。案内役の村人たちはゴリラが吠える声や、胸を叩いたりすると音を耳にすると「ハッ!」という顔をして、ヤリを咄嗟につかんで、命懸けの狩りに出ようとした。

 だが、そのとき同行していたコンゴ人動物学者、通称“ドクター”が「ゴリラは国際保護動物だ。狩って食べてはいけない」と繰り返し説いた。村人たちは、国際保護動物などまったく理解できない概念だっただろうが、都会から来た偉い人の言いつけとあって守っていた。ところがある日、ドクターはゴリラの観察中、うっかりゴリラに近づきすぎて襲われ、命を守るためにそのゴリラを銃で射殺。

 もともと村人たちはゴリラを食べたくて、しかも、探検部の仲間たちは極端な食糧不足で飢えていた。みんなの心はひとつだった。ゴリラは村の人たちの手によって、あっという間に解体され、鍋でぐつぐつと煮込まれた。

 この旅では、ほかにもチンパンジー、サル、ヘビなど野生動物を片っ端から食べたそうで、その結果、帰国後は自然と好き嫌いは消滅したという。

 一時期、“主夫”をしていた経験もある高野氏は、食べるだけではなく、「作る側」として、“どうやって作るんだろう?”という好奇心で、厨房へ突っ込んでいく。さらに、さすがの語学力で材料をちゃんと確認し、丹念に工程も追っているところも詳しすぎて、笑う。凡人には食べる機会すら得られない食べ物が多いので、ぜひ本の中で世界の「辺境メシ」を楽しんでもらいたい。

(文=上浦未来)

●たかの・ひでゆき

1966年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部所属時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。2005年、『ワセダ三畳青春記』で酒飲み書店員大賞を受賞。13年刊の『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。ほかに『西南シルクロードは密林に消える』『アヘン王国潜入記』『イスラム飲酒紀行』『謎のアジア納豆』『辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦』(清水克行氏との共著)など著書多数。

 

最終更新:2019/01/02 16:00
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