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錦戸亮主演『トレース』視聴率1ケタに急落も、ドラマ版の“原作愛”が2ケタ復活を可能に!?

■物語に厚みを加える役者陣の名演技!!

 第3話の見どころと言えば、虎丸が先輩刑事・鶴見(大地康雄)の悲しい過去を語るシーンだろう。

 ネタバレになってしまうが、西内を犯人に仕立てようとしたのは鶴見刑事。過去に女子児童を殺害した疑いが強いものの確証が出ないため平然と暮らす西内を、鶴見は何としても逮捕したかった。その理由は交番勤務時代のミスのせいで女子児童が殺される悲劇を招いたことを悔いていたから。虎丸は鶴見のしたことが許されないとわかりながらも、礼二に「ただ(鶴見の後悔を)知っていてほしかった」と、最後にポツリと言う。

 礼二に泣き言もお願いも言えない不器用な虎丸のその一言に「鶴見を許してあげてほしい」「西内が殺した確証を得るため協力してほしい」という気持ちが込もっていた。そのように感じ取れるほど虎丸役の船越英一郎の芝居は快演だった。第1話の、殺された女性を不憫に思い虎丸が涙を流すシーンもホロっと来る名場面である。

 船越英一郎だけでなく、礼二を演じる錦戸亮も素晴らしい。第2話で、落ち込むノンナに対して「お前はよくやった」と励ます際には、同僚を思いやる優しさと家族を亡くした人間としての憂いが込められていた。また、女優としては若手の新木優子だからこそ、新人研究員・ノンナの戸惑いを過不足なく抽出できている。

 各話の名場面に共通するのは、セリフがシンプルであること。これはメイン3人の役者への信頼があるからなのかもしれない。役者陣もその期待に応え、端的な一言の裏に秘められた登場人物たちの想いを、見事に表現している。

■ドラマ版『トレース』に原作愛はあるのか?

 このドラマの原作は古賀慶氏が「月刊コミックゼノン」(徳間書店)で連載中の『トレース~科捜研法医研究員の追想~』。サブタイトルの違いはさておき、内容に関して言えば共通する点も違う点も見受けられる。

 例えば、ドラマ版の第1話と第3話は原作にある小編を基に膨らませている。一方、第2話はキメラという特異体質が事件の鍵を握る骨子だけ抜き取り、肉付けを大きく変えていた。

 ストーリーラインに関して言えば、今後の展開も含めて原作に沿っている印象だ。しかし、原作とドラマ版の大きな違いがあるとすれば、先ほど絶賛した船越英一郎演じる虎丸刑事のキャラクターだろう。

 ドラマ版では科捜研にパワハラ気味な対応をする定年間際の刑事。仕事で家庭を犠牲にし、妻と息子とは絶縁状態の昭和堅気な男だ。一方、原作の虎丸は、生まれたばかりの子どもを愛し、科捜研に対して割と協力的なスタンス。肩の力も抜けたナイスミドルである。

 虎丸が好きな原作ファンからするとドラマ版の虎丸には納得いかない部分もあるだろう。しかしながら、虎丸を原作とは真逆なキャラにしたことでのメリットは多分にある。

 まず、虎丸を科捜研とって厄介な人間にした事で主人公・礼二に葛藤のラインができる。「刑事の勘だ」と主観で事件を見る虎丸に対して、原作でも頻出する「キモチワルイ」という口癖で反発するとともに、礼二の客観性を大切にする姿勢を色濃く出せている。

 また、前章で名シーンとして挙げた第1話の虎丸が涙を流す場面や、第3話の肝となった家庭を犠牲にした虎丸の後めたさも、ドラマ版の虎丸だからこそ生み出すことができた。

 ここまではドラマ版の改変を擁護する形になったが、原作ファンとしての私が嬉しかったポイントがある。それはメイン3人の被害者をいたわる誠実な姿勢がドラマ版の3人にも受け継がれていることだ。

 原作者である古賀慶氏は科捜研に居たことを明かしている。原作のディテールや登場人物が受ける痛みや悲しみは、研究員としての経験があるからこそ描けるのだろう。

 主人公・礼二が忌み嫌う主観で述べてしまうが、古賀氏は過去の仕事にも今の仕事にも真摯に向き合う誠実な人柄なのではないだろうか? そして古賀氏が生み出したキャラクターの誠実さを抽出できている時点で、映像化サイドの原作へのリスペクトを感じる。

 事件を解決しても喜んで終われない苦さ、そして原作から受け継いだ登場人物のDNAが最終回まで大切にされる事を願っている。

■3話の視聴率は9.6%……2ケタ台復活なるか!?

 今まで内容・役者・原作を賞賛してきたが、ここにきて懸念点が一つ出た。それは、第3話の視聴率が9.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という1ケタ台に落ちてしまったことだ。

 裏で瞬間最高視聴率20%超のサッカー・アジアカップが放映されていたことが大きい。ただ、原作にもあるとはいえ冒頭から女子児童の着衣で性的暴行の有無を調べたのはあまりにも痛ましかった(私ごとながら、2話のノンナみたく晩ご飯を食べられなくなりました)。これは素人意見かもしれないが、前話のおさらい的なシーンを冒頭に入れて各登場人物の想いに触れてからスタートした方が、主人公の目線に乗って見られて、凄惨さが気にならかったかもしれない。

 あともう一つ気になったのが急にメイン3人以外の研究員メンバーの描写が増えたこと。

 視聴時は余計なオカズに思えたが、4話で研究員の一人が容疑者とされるため必要な描写であった。前回の記事と重複してしまうが、無駄のない機能美に優れたドラマに思える。

 1月28日放映予定の第4話が、より多くの人に見られることを、原作ファンとしてもドラマ版のファンとしても期待したい。

最終更新:2019/01/30 17:27
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