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昼間たかしの100人にしかわからない本千冊 63冊目

平成の終わりに花柳幻舟【前編】

平成の終わりに花柳幻舟【前編】の画像1
『小学校中退、大学卒業』(明石書店)

 いよいよ平成が終わる。5月1日から令和になる。そんな時代の転換点を前に花柳幻舟が死んだ。碓氷峠の手前にあるめがね橋から落ちて。享年77歳。

 ひとつの時代が終わった。

 今まで、まだどこか絵空事だった昭和から平成というひとつの時代が終わることを認めざるを得なくなった。

 メディアの取り上げ方はさまざまだった。とりわけテレビは抑え気味で「舞踊家の~」と、通り一遍な説明で、その死を報じた。より詳細だったのはスポーツ新聞や週刊誌。そこでは「家元襲撃」「即位の礼で爆竹投げ逮捕」「爆竹テロ」などインパクトのある言葉が躍っていた。

 そう、バブル景気の真っ只中だった昭和天皇の崩御と、まもなく上皇となられる今上陛下の即位の礼へと至る時代。バブルの狂乱と相まって状況は混沌としていた。日本が、混沌とした中で何かをつかみ取ろうという情熱を持っていた最後の時代。札束が舞う日常の中で、片隅に追いやられていた左翼と右翼と、左右では表現できないさまざまな熱情を抱えた人々が、何かのきっかけを欲していた時代。幻舟が、即位の礼のパレードがさしかかる南青山の路上で天皇制を批判するビラをぶちまけて、爆竹を投げつけたのはそんな時代であった。1980年、家元制度の打倒を叫び花柳流家元の花柳寿輔を斬りつけた幻舟。

 家元制度批判が天皇制へと接続される主張をある人は喝采し、ある人は罵倒した。

 幻舟の主張するところは、彼女の著書の中に幾度も綴られる。『修羅 家元制度打倒』(三一書房)、『小学校中退、大学卒業』(明石書店)など。数多の著書の中で、そうした理屈が綴られる。

 彼女の綴る天皇制批判には、まったく共感は湧かない。むしろ彼女自身も、そうした言葉を述べながらも、なんかの活動家のように精緻に理屈をまとめていたというわけではない。それらに怒りの感情を昂ぶらせることで、自らの人生への輝きを生み出そうとしていたのではないか。文章からは、幻舟自身も気づいていないであろう、そんな意識が垣間見えるのだ。

 そう、ここで思い出すのはロープシンの『蒼ざめた馬』(岩波現代文庫ほか)。ロープシンは本名をボリス・サヴィンコフというロシアの革命家であった。革命家というが、実態は否定的な意味でなく「テロリスト」である。社会革命党(エスエル)に所属し、党指揮下の組織である社会革命党戦闘団を率いた。この社会革命党戦闘団は、滅茶苦茶な組織である。とにかく帝政ロシアの要人を爆弾で吹き飛ばし暗殺することに血道を上げる。党の指導など話半分にしか聞きはしない。おまけにサヴィンコフと共に団を率いたエヴノ・アゼフは内通者。自ら要人暗殺を計画し成功させながらも、同時にその情報を秘密警察に流している。もう、滅茶苦茶である。

 滅茶苦茶だけどつじつまは合う。なぜなら、彼らにとって手段と目的は転倒……いや、混沌としたものだから。目指すところは帝政ロシアの打倒かもしれない。でも、そんなことは些末なこと。やるべきことは要人暗殺。いずれは自分が逮捕されて死刑になるやもしれない。その明日をも知れぬ緊張感に身を置くことが自己目的化している。明日をも知れぬ緊張感が輝かせる人生の価値を味わうこと。ただ、それだけが目的となっているのだから「テロリスト」以外、なにものでもない。現にサヴィンコフは十月革命が起こると亡命し、ソビエト政権を打倒すべくイギリスの情報部とも手を結び、反ソ活動にいそしんだ。しかし、ついにはゲーペーウー(GPU:国家政治保安部)が遂行した彼を逮捕するための壮大な作戦によって人生を終えた。

 結局、理論は後付けであり、自分の情熱を燃やすための言い訳みたいなものにすぎない。幻舟とはそういう人なんだと思う。
(文=昼間たかし)

最終更新:2019/11/07 18:30
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