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ドラマ評論家・成馬零一の女優の花道

NHK朝ドラ『なつぞら』は生かしきれていない!? “ぽっちゃり若手女優”富田望生のポテンシャル

『宇宙を駆けるよだか』で開花させた才能

 こう書くと体形だけで役を得たかのように聞こえてしまうかもしれないが、もちろん、彼女の魅力はそれだけではない。一作一作、見較べると同じぽっちゃり女子でも、性格も環境も全然違う人間を見事に演じ分けている。

 残念ながら今の日本のテレビドラマにおいて、女芸人も含めたぽっちゃり女優は、陽気な3枚目か粗暴なキャラといった引き立て役に描かれがちだ。『なつぞら』も例外ではなく、なつがよっちゃんを牛役に見立ててクラスメイトの前で牛の出産場面を再現したシーンに対して、SNS上では批判が多かった。

 筆者も『なつぞら』を楽しみながらも、富田のポテンシャルをうまく生かしきれてないことには歯がゆく思っている。

 それはすでに『宇宙を駆けるよだか』が、富田の演技力を見事に生かし切っているのを見ているからだろう。

 本作は、Netflixで配信された異色の学園ドラマ。豊かな家に生まれ、容姿も美しく心も清らかな女子高生・小日向あゆみ(清原果耶)が、貧しい家に生まれ、太っている卑屈な同級生・海根然子(富田望生)がかけた呪いによって、外見と内面が入れ替わってしまう。海根の体になったあゆみは、恋人にも家族にも自分のことを理解してもらえず孤立し、クラスメイトからもバカにされる。

 10代の女の子がさらされる容姿に対する目線は残酷で、ぽっちゃり=太っているということは、同級生から侮蔑の対象とされてしまう。そういう現実を本作は容赦なく描いているのだが、同時に、それを超える価値観も提示している。

 海根の体になったあゆみは、ただ一人、自分のことを信じてくれた同級生の男の子に支えられて変わっていく。それに伴い、不潔に伸びっぱなしだった髪の毛も清潔にまとめて、次第に笑顔が増えていくと、周囲の反応も変わっていく。逆に海根の内面が入り込んだあゆみは、次第に卑屈な内面が露呈し、孤立していく。

 見ていて驚くのは、海根がどんどんかわいく見えてくることで、最終的に、太っている女性を根拠もなく不細工だと思い込んでいた(自分の中にあった)偏見がガラガラと崩れていく。これは、内面の入れ替わりに伴う外見と表情の変化を、富田がしっかりと演じきったからだ。

 筆者はいつか、本作を超える富田の才能を生かした作品を見てみたい。できれば、それは朝ドラのヒロインであってほしい。

 せっかく新しい時代に突入したのだ。体形でキャラを決める偏見は平成で終わっていい。多様性が叫ばれる時代だからこそ、朝ドラヒロインにも、もっといろんな体形や性格の子がいてもいいのではないかと思う。

 

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2019/05/13 14:04
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