深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.551

心優しきテロリストが最期に発した言葉とは? 実録サスペンス映画『エンテベ空港の7日間』

文=長野辰次

元警察官から命を狙われる監督からのメッセージ

演出中のジョゼ監督。現在は、ブラジルに柔道を広め、“ブラジリアン柔術の父”と呼ばれた前田光世の伝記ドラマを準備中だ。

ジョゼ「1967年にブラジルで生まれた僕が、なぜ76年のウガンダで起きたハイジャック事件に興味を持ったのか。それは、僕のデビュー作『バス174』と通じるものを感じたからなんだ。リオデジャネイロで起きたバスジャック事件は、ドラッグでハイになった不良少年が衝動的に起こした犯行だと思われていたわけだけど、事件を起こした少年の生い立ちを追ってみると、幼い頃に母親を目の前で殺されてホームレスになってしまったなどの事実が分かったんだ。マジメで家族想いの若者だった。ハイジャック犯たちもそう。彼らは彼らなりの理想や信念を持って生きた人間だった。この映画を観たイスラエルの記者は『凶悪犯に言葉を与えている』と非難したけれど、バスジャックした少年もハイジャック犯たちも、ロボットでもエイリアンでもなく、生身の人間だったんだ。彼らはなぜ事件を起こしたのか。その原因や背景を知らないと、同じような事件が繰り返され続けるだけになってしまうんじゃないかな」

 ハイジャック犯であるボーゼは人質たちと昼夜を共にすることで、次第に監禁状態に置かれた彼らに感情移入するようになっていく。ストックホルム症候群の逆の立場となるリマ症候群だ。エールフランスの機関士(ドゥニ・メノーシュ)とも言葉を交わし、自由社会を求めている自分が罪のない人たちから自由を奪っている矛盾に悩むようになっていく。あまりにも心優しすぎるテロリストだった。運命の日、イスラエル特殊部隊が旧管制塔へと突入し、このときボーゼは人質たちに向かって「みんな、床に伏せろ!」と叫んだ。人質たちの身を案じたボーゼが最期に残した言葉だった。

ジョセ「実際に人質になった人たちを取材して、再現したんだ。人質によって証言はさまざまだったけど、おおよそボーゼは柔和な性格で、逆に女性のブリギッテは常に冷静で厳しく人質に接していたらしい。フランス人の操縦士と機関士も、ボーゼは途中から悩むようになったと語っていた。この難しいボーゼ役を、ダニエル・ブリュールは進んで演じてくれた。ロザムンド・パイクも、この作品のためにドイツ語を修得してくれた。イスラエルの俳優たちも多数参加してくれたしね。イスラエルの政治状況に不満を持っているイスラエル人は少なくないんだよ。この映画を観て、怒る人がいてもいいと思うし、批判を受け止めるのも監督なら当然のこと。批判されたり、強迫を恐れて発言や表現を控えることは、自分から自由を手放すようなもの。なぜ、あのような事件が起きたのか、またなぜ紛争が今も続いているのかに興味を持ってほしいんだ」

 この映画の中では、英語、ドイツ語、フランス語、ヘブライ語、アラブ語……と多彩な言語が飛び交っている。まるで旧約聖書で描かれたバベルの塔の崩壊後の混乱を思わせるような物語となっている。緊迫のドラマが進む中、イスラエルの人気舞踊団「バットシェバ」のコンテンポラリーダンスが盛り込まれる。ユダヤ人の伝統的民俗衣装を着たダンサーたちがステージ上で踊っているが、ダンサーたちは踊りが進むにつれて衣装を脱ぎ捨て、剥き出しの姿となっていく。最後まで民俗衣装に固執したダンサーには死が待っているという意味深な内容だ。ジョゼ監督の『エンテベ空港の7日間』には、言語、民族、国籍、思想の違い、さらには法的倫理観も超越したものが描かれている。

(文=長野辰次)

『エンテベ空港の7日間』

監督/ジョゼ・パジーリャ 脚本/グレゴリー・バーク

出演/ロザムンド・パイク、ダニエル・ブリュール、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ドゥニ・メノーシュ、ベン・シュネッツァー

配給/キノフィルムズ、木下グループ 10月4日(金)より日比谷・TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

(c)2017 STRYTELLER DISTRIBUTION CO.,LLC.All Rights Reserved.

http://entebbe.jp

 

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最終更新:2019/10/04 18:00
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