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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.568

恋愛コメディの旗手・今泉力哉監督がさらに進化! 新しい家族、新しい社会の在り方を描いた『his』

LGBT問題を受け持つ弁護士が監修した法廷シーン

『偽装不倫』(日本テレビ系)で話題を呼んだ宮沢氷魚(画像右)は、本作で映画初主演。「ゲイの友達に相談したり、自分なりに研究しました」と語っている。

 ゲイであることを隠してきた迅が、町の人たちにカミングアウトするシーンが秀逸だ。町の集会所で、他の子どもたちと仲良く遊んでいた空が、突然「嘘つき」呼ばわりされるようになる。「夜、目が覚めたら、パパと迅くんがキスしてた」と空が話したことで、子どもたちは「男同士はキスをしない。空ちゃんは嘘をついている」と騒ぎ出したのだ。ここで「空は寝ぼけていたんだね」と迅が弁明すれば、この場は流すことができる。でも、自分がゲイであることを隠し、自分自身に嘘をついてきた迅は、純真な空が「嘘つき」呼ばわりされることに耐えられない。空の心を傷つけたくない迅は、町の人たちへのカミングアウトを決意する。

 かなり風変わりなラブストーリーから、後半はシリアスな法廷ドラマへと転じていく。空の母親である玲奈が白川町を訪れ、渚との離婚調停を進めるために空を強引に連れ戻してしまう。空の親権をめぐり、家庭裁判所に呼ばれる渚、証人として法廷に立つことになる迅。玲奈が雇ったやり手弁護士の水野(堀部圭介)は「ゲイカップルのもとでの子育ては、子どもに悪影響を与える」と容赦ない。法廷シーンはNetflix配信映画『マリッジ・ストーリー』(19)ばりの辛辣さだ。

 今泉監督作品の魅力のひとつに、多彩な登場キャラクターたちの一人ひとりに今泉監督が温かい目線を送っていることがある。ストーリー上、渚と迅にとっては「敵役」となる玲奈だが、彼女もまたシングルマザーとして働きながら子育てすることの難しさに苦悶している。いい母親であろうとすればするほど、マジメな性格の玲奈はストレスを抱え込むことになる。問題をすべて自分ひとりで解決しようとして、より泥沼へとハマっていく玲奈。厳格な母親(中村久美)との冷ややかな関係性もあり、玲奈自身がいちばん愛情を求めていたことが分かる。

 フリーランスの通訳である玲奈は仕事に追われ、娘の空と向き合う時間がどうしても限られている。渚側の弁護士・桜井(戸田恵子)は、そんな玲奈の弱点を攻めることになる。とてもリアルな法廷シーンとなっているが、この法廷シーンの監修をしているのが南和行弁護士。南弁護士はドキュメンタリー映画『愛と法』(18)に出演、ゲイであることを公表し、同性のパートナーである弁護士と「なんもり法律事務所」を大阪で開いている。実際の裁判でLGBT問題にも取り組んでいる。本作では脚本家のアサダアツシの執筆したシナリオに不自然な部分はないかチェックし、裁判シーンの起訴状や答弁書などは南弁護士が書いたそうだ。愛という不定形なものを、はたして法律は裁くことができるのかというシビアなクライマックスとなっている。

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