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聴覚だけでなく視覚も満たす「抖音神曲」たち

爆発的ヒット曲を生み出す中国版Tik Tok「抖音」、テクノロジーで急速に広がる“中国の最新音楽市場”

人気ミュージシャンの共通点はUGCのBGMに選ばれること?

 19年に爆発的な人気になった駆け出しのミュージシャンの共通点としては、彼らの曲が多くのユーザーのUGCのバッググラウンドミュージックに選ばれたことだ。「阿冗」というミュージシャンは、「你的答案」という曲を2019年11月1日にリリースし、わずか2カ月で1434万人(2020年1月時点)がこの曲を用い、UGCを制作した。驚くことに、彼のウェイボーのフォロワー数はたったの25000人ほどだが、それでも抖音においては、一曲のみで驚異的な利用者数を叩き出している。

 またUGCの選曲でバズった例ではないが、「摩登兄弟」というグループも、元々はインディーズで活動し、ライブ動画を通じて配信を積極的に行っていたが、抖音にて曲の配信と動画の投稿を始めたところ、人気が急上昇。今では抖音において3241万人のフォロワー数を擁し、彼がライブ配信をする会場は常にパンク状態に陥るほどの人気っぷりだ。

 少し前には、「野狼disco」という曲が、リズミカルなダンスと脳裏に残り続ける歌詞とリズムに、一時期は抖音全体のUGCが同曲一色となった。この曲を制作したアーティストは「宝石gem」という「中国新説唱」に参加したラッパーだが、中国全土に名を知らせたのは彼が制作した曲の方だろう。若者には絶大な人気を誇るラップ番組とはいえ、全員が視聴しているわけではない。むしろ2019年6月時点で、MAU 4.8億人という驚異的な数字をマークしている抖音の方が波及効果を産むことができるだろう。

 このような状況もあり、最近では抖音や「快手」(クァイショウ)といったショートビデオプラットフォームが草の根ミュージシャンの育成計画を実施し、大手レコード会社や音楽事務所とのマッチング機会を提供するなど、積極的にこれら駆け出しのミュージシャンにメジャーデビューのチャンスを与えている。

 実際、抖音で人気となった曲は、すぐに「QQ音楽」や「網易雲音楽」といった中国の音楽サービスにおいて、人気ランキング上位にランクインすることが多々ある。

 中国国内のレストランでも、これらの曲をヘビロテで流す場所は多く、抖音で人気となった曲を「抖音神曲」と呼ぶ。音楽もすでに、聴覚のみで楽しむ芸術から、聴覚・視覚で享受するエンターテイメントへと変わりつつある。その中で、抖音といったショートビデオプラットフォームは、短時間で両方を楽しめる最適のサービスとなるだろう。

 余談だが、抖音自体も毎年紅白張りの音楽の祭典を開催しており、これら草の根ミュージシャンに大型舞台へと上がる機会を提供している。中国のデジタル革命は、人々の生活のみならず、職業にも多大な影響を及ぼしている。ミュージシャンにとっても、今まで限られていたデビュー経路は、新たなサービスにより、可能性が拡大し、より多くのチャンスが中国社会には溢れている。

東京生まれ、北京育ち。日本の政府機関で日本と中国をつなぐ事業に従事する傍ら、中国の若者トレンドやチャイナテックなどについての記事を執筆。日本の高校生を中国へ招待し、中国のテクノロジーや起業、政策などを学ぶ教育プロジェクト「Dot STATION」も運営中。

なつめひでお

最終更新:2020/02/16 12:12
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