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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.585

殺人を犯した未成年者たちの更生は可能なのか? 実在の少年犯罪が題材の『許された子どもたち』

桃子という“聖女”的キャラクターの登場

「いじめられる側にも原因がある」という理不尽な理由から、桃子(名倉雪乃)はクラスメイトから迫害されていた。

 名前を変え、新しい学校で人生をリセットしようとする絆星だが、ネット上での中傷は続き、転校先でも自分の正体がバレることを恐れながら暮らさなくてはならない。絆星は加害者として自分の罪を悔いるよりも、被害者意識がどんどん強まっていく。救いのない物語の後半、内藤監督はとても映画的なキャラクターを登場させる。

 絆星の転校先の学校には、クラスメイトたちから「村八分」状態になっている桃子(名倉雪乃)がいた。無視して喜ぶクラスメイトたちが幼く映る桃子には、絆星がボロボロになった内面を隠していることが分かった。桃子は絆星に寄り添い、絆星も桃子には心を開くようになっていく。同世代の理解者を得ることで、絆星は心の中のわだかまりをようやく吐き出すことができる。

 絆星が犯した罪を知った桃子は、「なぜ殺したの?」とその理由を尋ねる。「理由はあったと思うけど、もう思い出せない」と首を振る絆星。桃子は「謝ったら。絆星くん、苦しそう」と暴発しそうな絆星の心を気遣う。若い2人は贖罪の旅へと向かうことになる。

 取り返しのつかない罪を犯した未成年者は、その罪を償い、本当に更生することができるのだろうか。とても難しい問題だ。絆星の場合は、学校も家庭も裁判所も彼に更生する機会を与えてはくれなかった。では、桃子のように罪を犯した絆星に寄り添ってくれる“聖女”的な存在が都合よく現れてくれるかといえば、その可能性は低いに違いない。

 容易には解決できない少年犯罪をめぐる問題に対し、内藤監督は映画的なキャラクターである桃子を配することで、絶望の淵に立つ絆星に希望を与えたかったのではないだろうか。内藤監督自身が10代の頃に抱えていた疎外感、孤独感といった負の感情を、いろんな映画を観ることで癒やし、危険な時期を乗り切っている。内藤監督にとっては、映画という現実とは異なるもうひとつの世界に触れることが救いとなった。映画に救われた内藤監督は、同じように悩む若者に向けて映画を撮り続けている。

 映画の世界では、同じひとりの俳優が脚本次第で、凶悪犯にもなれば、世界を救うヒーローになることもできる。さまざまな物語、いろんな役、自分とは異なる価値観に触れることで、見えてくるものがある。少なくとも、本作に関わった10代のキャストたちは、それまでに味わったことのない大きな体験となったのではないだろうか。

 

『許された子どもたち』
監督/内藤瑛亮 脚本/内藤瑛亮、山形哲生
出演/上村侑、黒岩よし、名倉雪乃、阿部匠晟、池田朱那、大嶋康太、清水凌、住川龍珠、津田茜、西川ゆず、野呈安見、春名柊夜、日野友和、美輪ひまり、茂木拓也、矢口凜華、山崎汐南、地曳豪、門田麻衣子、三原哲郎、相馬絵美
配給/SPACE SHOWER FILMS PG12 6月1日(月)より渋谷ユーロスペース、テアトル梅田ほか全国順次公開
(c)2020「許された子どもたち」製作委員会
http://www.yurusaretakodomotachi.com

最終更新:2020/05/29 09:20
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