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新型コロナ治療薬でも“米中戦争”!? トランプ大統領肝いり「レムデシビル」に効果なしの報告も…

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※イメージ写真(GettyImagesより)

 トランプ米大統領も投薬した新型コロナウイルス治療薬「レムデシビル」について、WHO(世界保健機関)が10月15日、「死亡率を改善する効果はほとんどない」という暫定調査結果を発表、現場の医師からは「レムデシビルは他の治療薬との併用により、効果が出ている」との声もあがるなど、物議を醸し出している。

 WHOは30カ国以上405の病院で計1万1266人の無作為に選んだ患者を対象に、「レムデシビル」、「ヒドロキシクロロキン」、「ロピナビル/リトナビル」、「インターフェロン」が新型コロナに効くかどうかを試す「連帯治験」を行った。

 その結果、「レムデシビル」を含む4種類の薬は、いずれも死亡率の改善や28日間の入院期間を短縮する効果は、ほとんど見られなかった。WHOは、レムデシビルについて、「緊急使用を認めている各国の当局はデータを、再検討すべき」との考えを示した。ただし、この結果は査読(専門家による評価や検証)を受けたものではない。

 ただ、これまでにも、中国などの研究グループが臨床試験の結果、レムデシビルの有効性が確認されなかったとの調査結果を英医学誌に公表するなど、その有効性を否定する論文が複数出されている。

 一方で、同薬は米国の大手製薬会社「ギリアド・サイエンシズ」が開発中の新型コロナウイルス治療薬。もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されものだが、米国立衛生研究所(NIH)が4月29日、新型コロナウイルスの感染者を対象としたレムデシビルの臨床試験について、「回復にかかる期間を短縮し、重症化を防ぐ効果が期待できる」とし、一定の効果がみられたとする中間結果を公表した。

 これにより、5月にはFDA(米食品医薬品局)が緊急使用許可を出し、日本でも初の新型コロナウイルス治療薬として「特例承認」された。現在、世界50カ国で使用されている。日本には無償提供されており、人工呼吸器や集中治療室などを利用する重症者を対象に厚生労働省が医療機関を通じてレムデシビルを提供している。

 その後も、「レムデシビル」に対しては10月8日、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が最終段階の治験結果として、軽度から重度まで1000人以上の入院患者を対象に半数にレムデシビル、残り半数に偽薬をそれぞれ最大10日、投与して比較した結果、重度の場合、回復は平均で7日、全体の患者の期間の中央値は10日で、偽薬のグループの15日より短縮されたという報告が、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」に掲載された。

 WHOの中間結果に対して、ギリアド・サイエンシズも「厳格な検証を受ける前のものだ」と指摘し、「これまで複数の臨床試験で示されてきた有効性と矛盾している」と反論している。

 国内でも国立国際医療研究センターが行った試験管内のテストでは、レムデシビルは多くの候補薬の中で、ウイルスの増殖を抑制する効果がもっとも高いとの結果が出ている。また、現場の医師からは「レムデシビルとバリシチニブ、デキサメタゾン、トシリズマブを併用することで新型コロナウイルスに対する効果が出ている」との指摘もある。

 一方で今回のWHOのレムデシビルの評価に対して、利権や確執によるものではないか、との声も上がっている。

 5月には、トランプ大統領がWHOを“中国寄り”だとし、新型コロナウイルス感染拡大について正確な情報提供ができていないと非難、WHOへの資金拠出を停止し、脱退すると宣言した。そして、7月には2021年7月6日にWHOを脱退すると国連に正式に通告している。

 今回のWHOのレムデシビルに対する評価の背景には、こうした“米国とWHOの確執”があるとの指摘も出ている。また、レムデシビルを推すトランプ大統領にとって、WHOがレムデシビルの効果を否定したことは、米大統領選で“トランプ大統領不利に働く”との指摘もある。

 いずれにしても、これだけレムデシビルに対する評価がわかれれば、医療現場での混乱につながりかねない。今回のWHOの発表によれば、新型コロナウイルスに効果がある唯一の治療薬はステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」だけということになる。

 いったいいつになれば、新型コロナウイルスに効果がある治療薬が開発されるのだろうか。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/10/21 17:00
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