日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 瞑想ブームに見る仏教と科学の関係史

催眠術、オウム真理教、マインドフルネス……科学と交差した仏教と“あやしげなもの”

年配の僧侶や仏教学者が反対する瞑想ブーム

――日本ではマインドフルネスという言葉が広く流通し始めたのは、2010年代半ば頃からですよね。アメリカでマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士が最初に提唱し始めたのは70年代末のようですが。

碧海 ただ、日本でも書店の仏教書コーナーでは20年ほど前から瞑想関係の書籍がどんどん増えてきていました。実は、それもこの本で書こうと思ったきっかけのひとつです。

 従来は高僧の法話や「仏教に学ぶ生き方の知恵」「親鸞『歎異抄』を読む」みたいな本が多かったけれども、今ではその手の本でも瞑想を噛ませるものが増えた印象があります。具体的に検証したわけではないので確かなことは言えませんが、これは20世紀の日本にはなかった現象のはずです。仏教系出版社のサンガ出版がヴィパッサナー瞑想法を説くスリランカのアルボムッレ・スマナサーラの本を出版し、一大潮流を築いたのが2000年代のことです。プチ修行ブームなども含め、21世紀には仏教に対する需要が言語ベースから身体ベースになってきた印象があります。

――確かに、日本の伝統仏教には瞑想中心のようなイメージはないですものね。

碧海 禅はやってきましたが、それをウリにしていたわけではありません。瞑想ブームは東南アジアやアメリカから入ってきたものです。それに対して、日本では若いお坊さんは採り入れている方もいる一方、年配のお坊さんや仏教学者には反発する方も多い。ただ、良い悪いではなくて、ここまでくると「敵視するのではなく、人々の求めるものをどうとらえるか考えたほうがいいのでは」と私自身は思っています。

――碧海先生の目下の関心は?

碧海 『科学化する仏教』では科学や技術に還元できない仏教が大事だろうというオチにしましたが、その後を語らないといけないと思い、親鸞に取り組んでいます。日本の仏教では浄土真宗が最大勢力ですが、その背景には親鸞人気がある。大衆にだけでなく、「悪人正機」は知識人に響くものがあった。では、なぜ日本人に人気なのか――。こうしたことを考えるようになったのは、コロナ禍によって心がドメスティックになっていった結果でもあります。

――どういうことですか?

碧海 大学にもほとんど行けず、研究室ではなく家で原稿を書いていること自体、久しぶりなんですね。このところ近代仏教研究はグローバルな方面に向かっていますが、日本で動かないでものを考えていると親鸞っぽくなってくるんです(笑)。禅は海外で人気がありますが、親鸞は英語に訳しても海外に広く輸出できない日本的なものです。逆に言えば、仏教の歴史から見ても特殊な教えを説いている親鸞を考えることは、「日本人とは何か?」につながる。そこに脱伝統化できない何かがあると思って、自宅に籠もりながら考えています。

(プロフィール)
碧海寿広(おおみ・としひろ)
1981年、東京生まれ。国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター研究員、龍谷大学アジア仏教文化研究センター博士研究員などを経て、武蔵野大学文学部准教授。専門は宗教学、近代仏教。著書に『近代仏教のなかの真宗 近角常観と求道者たち』(法藏館)、『入門 近代仏教思想』(ちくま新書)、『仏像と日本人 宗教と美の近現代』(中公新書)など がある。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2020/10/24 11:03
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