日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 瞑想ブームに見る仏教と科学の関係史

催眠術、オウム真理教、マインドフルネス……科学と交差した仏教と“あやしげなもの”

科学では測定できない主観的な体験の領域

――日本ではポップ・カルチャーの影響もあって、密教にはよく言えば神秘的な、悪く言えばいかがわしいイメージがどこかあると思いますが、欧米でのダライ・ラマ受容を見ていると全然そんなことはないですよね。これは?

碧海 もともと仏教が伝わっていなかった国や地域、特に欧米圏の人たちが近代に入って仏教と出会い、「仏教の何が一番いいのだろう」と考えたときに、「サイエンスと似たところがある。そこがキリスト教よりいい」と規定して仏教を取り入れてきた歴史があります。ダライ・ラマはその流れに自覚的で、世界に対してチベット仏教の地位を維持するために戦略的に「仏教と科学の対話」を打ち出し、チベット密教のマジカルな部分はあまり出さないようにしています。

――『科学化する仏教』を読むと、仏教が提供してきたものを科学で説明できるようになる(ないし「なったと思われる」)と、仏教・禅サイドから「それは真の仏教(禅)ではない」と押し返される歴史が繰り返されていることがわかります。アンドロイドの研究開発で知られる大阪大学の石黒浩先生が、工学の歴史を見ていくと、技術が進歩して人間の能力が機械に置き換えられる領域が増えるたびに、「それは人間の本質ではない」と人間や知性の定義が変わっていっている、と言っていましたが、それを思い出します。

碧海 そうした意味では、宗教は科学に対してずっと撤退戦をやっているともいえるし、神秘化していっているともいえます。もちろん、科学が入り込めない宗教の固有性はまだありますが、そこが還元されてしまうかどうかですよね。

――「客観科学としての心理学や神経科学では扱えない、主観的な体験の領域がある」といったロジックで仏教サイドはずっと応じてきたわけですよね。それってクオリアの議論と似ているなとも思いました。夕陽を見て感じた「赤々とした印象」のようなクオリアは、主観的な現象であるがゆえに、客観科学である神経科学では基本的に扱えない、というロジックと同型です。

碧海 宗教体験もクオリアや芸術的な感動と同じで、個人の内側から体感しているものなので、科学的には測定できません。脳波や心拍の測定をいくらやっても、「わかった」とはいえない領域がある。そこは、科学には代替不能な部分として守られています。「宗教体験の特別性は科学で分解できない」ということが、それゆえに今後説得力を増してくるのかもしれないし、科学が発達すればするほど信憑性がなくなっていくかもしれない。今の段階でどちらになのるか、まだなんとも言えないですね。

仏教に由来するマインドフルネスの脱宗教化

――『科学化する仏教』は「仏教はどんなふうに消費されてきたか」の歴史でもあると思って読みました。マーケティング用語として「今はモノじゃなくてコト消費だ」「コトを超えてヒトを軸に消費するんだ」というクリシェがありますよね。コト消費やヒト消費はまさに主観的な体験価値を軸にしていますから、仏教に親和的なのではと。体験性があり、媒介となる僧侶を必要とする。そして、モノ部分としては「瞑想の効果が科学的に裏付けられた」といった価値の提供もある。

碧海 ただ、本来はコト体験なんだけれども、特定のお坊さんに指導してもらうものだった座禅などから属人的な要素が剥奪され、体験の様式がマニュアル化された「モノ」として、アプリのようにいい感じに流通可能になったのがマインドフルネスだと思うんですね。「カジュアルな瞑想で能力が高まる」といった昨今の瞑想ブームは、宗教が元になっているから私としては宗教の歴史から考えたいのだけれども、もはや宗教と関係がないという意味ではなかなか類を見ない現象です。信仰がなくても観光客がパワースポットに行けば、そこは宗教由来の土地や施設だったりするけれども、そういうものではない。かといって、伝統宗教の持っていた要素を断片化したスピリチュアルカルチャーとも、やや性格が違う。

――ヨガとは近いのでは?

碧海 そうですね。どちらも身体を動かして行うものですし。ただ、ヨガはゆっくりと宗教色を脱色していきましたし、インド由来というイメージがまだ多少あるのに対して、マインドフルネスは脱宗教化、無国籍化が非常に急です。仏教に由来する瞑想がこれほど広範に実践されていることも、仏教というラベルを外されて仏教由来のものがここまで世界的に広まったことも、歴史的に見て稀有な事態ではないでしょうか。

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