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唯一の被爆国・日本、「核兵器禁止条約」批准せず…米国の核の傘に隠れる際どい立場

アメリカの核の傘の下にいる日本

 日本原水爆被害者団体協議会も記者会見を行い、政府の姿勢に対して「何も考えていない」と厳しく批判。「私たちは早い廃絶を望んでいる。核兵器のない世界を作る道筋だけでも、被爆者が生きているうちに見たい」と政府に要望した。

 ただ、同条約では「核兵器の保有」が全面禁止とされていることから、当然のことながら核保有国である米国、ロシア、中国などの大国は同条約に対して批判的な姿勢で、批准も行っていない。

 核保有国の米国などは核拡散防止条約(NPT)などの既存の枠組みの活用を重視している。NTPは米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国を「核兵器国」と定めた上で、核兵器国以外への核兵器の拡散を防止するもので、2020年1月現在、191カ国・地域が条約を締結している。

 同条約は、核兵器国以外への核兵器の拡散を防止する「核不拡散」とともに、条約締結国による核軍縮交渉を行う義務「核軍縮」、締結国の原子力の平和的利用の軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾する義務などが定められている。

 余談だが、インド、パキスタン、イスラエル、南スーダンはこの条約を締結しておらず、時々、「IAEAの査察を拒否」というニュースが流れる。さらに、北朝鮮は同条約からの脱退を何度も宣言し、これを政治的な取引材料としてきている。北朝鮮の脱退は正式には認められていない(いわゆる店晒しになっている)が、2006年10月に地下核実験を行ったことで、条約上に定義された「核兵器国」以外の事実上の「核兵器国」となっている。

 日本は唯一の被爆国として今回の「核兵器禁止条約」批准を世界各国から期待されていたが、前述のとおり政府は「核保有国が批准していない条約では意味がない」との姿勢を通している。

 この背景には、2015年の「国家安全保障戦略」で、わが国の安全保障政策の根幹を「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していく」ことに置いていることが大きい。

「核兵器禁止条約」の第1条では、「禁止された活動に係る援助の要求・受諾」を禁止しているため、日本が同条約を批准すると、日本(条約締結国)は核保有国(米国)による拡大核抑止の供与を要求・受諾することが条約違反となるという日米安保上の問題にある。

 拡大核抑止とは、核兵器の保有が核兵器の使用を躊躇する状況を作り出し、抑止力となるとの考え方で「核の傘」などと呼ばれる。つまり、日本は「核兵器禁止条約」を批准すると米国の“核の傘”に入れないということになる。

 日本は、北朝鮮、中国、ロシアという核兵器保有国に囲まれているため、抑止力を得るためには米国の核の傘に入っている必要があり、政府が「核兵器禁止条約」の批准を否定し、「核拡散防止条約」が現実的で有効な手段とする理由だ。

「核兵器禁止条約」が2021年1月22日に発効すること、唯一の被爆国である日本がこの条約を批准していないことについては、一部のニュースで取り上げられただけだ。唯一の被爆国である日本が、核兵器に対してどのような姿勢で世界と向き合っていくべきなのかについて、きちんと国民的な議論を行うべきだろう。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/10/28 21:00
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