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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.608

強盗犯を愛してしまう人質の奇妙な心理とは? 実録犯罪ドラマ『ストックホルム・ケース』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

ビートたけし主演ドラマもよく似たケース

強盗犯を愛してしまう人質の奇妙な心理とは? 実録犯罪ドラマ『ストックホルム・ケース』の画像3
近年の人質救出マニュアルには、「人質が犯人をかばうことがあるので注意せよ」と書かれているそうだ。

 日本で起きた「ストックホルム症候群」の一例として、1968年に起きた「金嬉老事件」を挙げることができる。在日朝鮮人の金嬉老は暴力団組員2人を射殺した後、温泉旅館に旅館経営者や宿泊客を人質にして立て篭もった。4日間にわたる籠城が続いたこの事件は、ビートたけし主演ドラマ『金(キム)の戦争』(フジテレビ系)として1991年にテレビ放映されている。

 金は日本社会で朝鮮人が不当な差別に遭っていることを主張したものの、人質には直接的な暴力を振るうことはなかった。『金の戦争』の中でも、国家試験を控えている若い人質がいると知り、「資格は持っていたほうがいいよ」と解放し、金が浴場に猟銃を置き忘れていると、旅館主が「金さん、忘れ物だよ」と銃を届けるシーンが描かれていた。人質たちの多くは逃げ出すチャンスがあったのに、旅館にそのまま留まった。

 立て籠りを続けている間に、犯人と人質との間に奇妙な連帯感が生じるようだ。「犯人は人質に対しては、とても紳士的でした」という被害者が犯人を擁護するコメントは警察が嫌うため、公表されることはあまりない。

 実録犯罪映画『ストックホルム・ケース』のクライマックス、ラースたちの逃亡を成功させようと、人質たちは警察が用意した狙撃手たちの前に立ちはだかる。ビアンカらが守ろうとしたのは、間の抜けた強盗犯ラースの命だけではない。法律や社会のルールでは裁くことができない人間の弱さそのものを、彼女たちは守ろうとする。

 人間の弱さを否定すれば、それはとても息苦しい世界になってしまう。映画や小説や音楽、そして人間の心は、そんな人間の弱さを受け止めるためにあるのではないだろうか。ボブ・ディランは「明日は遠く」でこう歌った。「もしも明日がこんなにも遠くなければ、孤独という言葉は意味を持たなくなるだろう。彼女の穏やかな心臓の鼓動が聴こえさえすれば、僕は安心してベッドで横になれる」と。

強盗犯を愛してしまう人質の奇妙な心理とは? 実録犯罪ドラマ『ストックホルム・ケース』の画像4

『ストックホルム・ケース』
監督・脚本/ロバート・バドロー
出演/イーサン・ホーク、ノオミ・ラパス、マーク・ストロング
配給/トランスフォーマー 11月6日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺ほか
(c)2018 Bankdrama Film Ltd. & Chimeney Group. All rights reserved.
http://www.transformer.co.jp/m/stockholmcase

長野辰次(ながの・たつじ)

長野辰次(ながの・たつじ)

フリーライター。著書に『バックステージヒーローズ』『パンドラ映画館 美女と楽園』など。共著に『世界のカルト監督列伝』『仰天カルト・ムービー100 PART2』ほか。

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最終更新:2020/11/07 09:00
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