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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.606

現代日本の歪みを照らし出した社会派ミステリー 出産と子育てがもたらす不幸と幸せ『朝が来る』

文=長野辰次(ながの・たつじ)

 

直木賞作家・辻村深月のミステリー小説を、河瀬直美監督が映画化した『朝が来る』

 20代はガムシャラに働き、30代になって仕事の面白さを覚え、40代でようやく精神的にも経済的にも落ち着くようになってきた。でも、その頃には世間一般で考えられている結婚や出産の適齢期を過ぎつつあった――。そんなシビアな現実を空虚な想いで噛み締めている人は、男女を問わず多いのではないだろうか。現代の日本を支える社会システムと人間の動物としての生理のメカニズムとの間に、大きな歪みが生じている。日本の非婚率の高さ、少子化傾向は、行政の場当たり的な福祉政策では歯止めをかけることはできない。直木賞作家・辻村深月が2016年に発表した小説を原作にした映画『朝が来る』は、そんな社会の歪みを浮き彫りにしたミステリー作品となっている。

 佐都子(永作博美)と清和(井浦新)は共に大企業に勤め、首都圏にあるタワーマンションで暮らしている。経済的には不満のない夫婦生活だが、子どもには恵まれずにいた。夫婦で不妊治療を受けてみると、清和が無精子症であることが判明。かなりの費用と男女それぞれに痛みを強いる治療を続けるが、その苦労は実らなかった。「2人で生きていこう」とお互いにいたわり合う佐都子と清和だった。

 親になることは諦めたはずの佐都子と清和だったが、テレビでたまたま「特別養子縁組」を扱ったドキュメンタリー番組を見たことから運命が大きく変わる。さまざまな事情により、子どもを育てることができなくなった家庭から、子どもをもらい受ける制度だ。NPO法人「ベビーバトン」の代表・浅見(浅田美代子)が語る「親が子どもを見つけるのではなく、子どもが親を見つける制度です」という言葉が、2人の心を捉えた。試しに説明会に参加してみると、実際に養子縁組した親子はとても明るい表情をしている。血が繋がっていなくても、親子にはなれる。そう感じた2人は、「ベビーバトン」に登録することを決める。

 佐都子と清和は、広島の病院で生まれたばかりの男の子を養子に迎えることに。男の子の実の母親である少女は、「ごめんなさい。お願いします」と泣きながら2人に子どもを委ねた。それから6年。男の子は朝斗(佐藤令旺)と名づけられ、利発な幼稚園児へと成長する。佐都子は職場を離れ、子育てに専念していたが、不満はなかった。子どもを中心に回る生活が楽しいことを、佐都子も相変わらず仕事が忙しい清和も実感していた。

 アナログ盤のレコードのA面が終わり、B面へと変わるように、この物語も後半はアナザーサイドへと切り替わる。前半は佐都子が養子縁組を利用して「母親」になる喜びを描いたパートだとすれば、後半は望まれぬ子どもを出産したことから辛酸を舐め続ける孤独な少女の物語が始まる。

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