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アニメーター薄給問題の根源がわかる? 高畑勲、宮崎駿も闘った「東映動画」労使対立の真相と正史

東映動画の不思議な版権ビジネス

 

 

――『東映動画史論』を読むと、75年に親会社の東映が版権事業を一元化しようとしたことに抗して、「アニメの窓口業務は東映動画に」と主張したことが今日に至る「東映アニメーション=版権ビジネスで稼ぐ会社」という姿につながり、また、それこそが経営の安定化とその後の新人採用・育成、スタッフの待遇改善に寄与したことがわかりました。

木村 普通であれば、東映本社が保有すると思いますよね。形式的には、アニメ制作を請け負う窓口は東映にあり、東映動画は本社を通して受注していたわけですから。ところが、子会社のほうが作品の版権を握っている。そこが東映動画のユニークなところです。

――90年代後半に製作委員会方式が一般化する以前には、スポンサーが制作資金を出し、テレビ局から発注を受けて制作会社がアニメを作る――けれども、その制作費だけではそもそも赤字で、代わりにアニメ制作会社が版権事業を行う窓口権を得て2次使用料でリクープする、という不思議なビジネスモデルが主流でした。その成立にも東映動画は関わっていますよね? 今も東映アニメは基本的にこの方法を選択しています。

木村 版権関係の契約書と東映動画内の組織図とを付き合わせていくと、版権の部署が充実していくのと並行して、窓口権をアニメの原作となるマンガの出版社などが持っていた体制から、東映動画側が持つ体制になっていったことがわかります。

 ただ、これは東映動画だけで作れる枠組みではない。虫プロダクションは当初、手塚治虫原作アニメの版権を自前で持っていました。一方、『鉄人28号』や『スーパージェッター』などのアニメを作り、CM制作会社でもあったTCJ(現・エイケン)の場合はTBSが権利を握っています。つまり、プロダクションやテレビ局ごとに方針が違っていました。

 東映動画の場合は東映が親会社であり、東映がNET(現・テレビ朝日)の大株主ということもあって、局ではなく東映動画が権利を保有しやすかったのかもしれません。

労働組合が起こした裁判の実態

――東映動画労働組合は、72年からの大量解雇に対して裁判を起こしたといった闘争的なイメージがありました。しかしこの本を読むと、経営陣と労組は“労使対立”のステレオタイプでは片付けられない関係であったことも非常に印象的でした。

木村 まず、ステレオタイプな労働運動や労使紛争観が適切なのかという問題もあると思います。その上で東映動画について、なぜそうなったかといえば、解雇に対しての72年からの裁判において、会社側が決算や東映との関係についての資料を提出し陳述していく過程で、労組側も不可避的に会社の置かれた状況を把握し、組合が独自の経営分析を行い、戦略を立てるという慣習が定着したからだと思います。――ただ、当事者に訊くと、それは組合側の闘争力を弱める要因を伴っていたのではないか、と言う方もいます。会社の苦しさもわかってしまうと、責めあぐねる部分も出てきますから。

――それ以降は戦闘的ではなくなっている?

木村 会社側も労組側も緩やかになっている感じはします。とはいえ、御用組合化はせず、リアリティを持ちつつ労組固有の視点から労使交渉に臨んでいます。また、労働組合の組合員から会社の管理職になっていく人も、立場や方法が変わろうと「現場の構造を俯瞰的に把握しないと回らない」という視点は一貫しています。

 組合側も無闇には妥協せず、80年代に新人採用で入ってきたいわゆる研修生世代に手を差し伸べ、若い世代も組合を通じて労働者としての権利を守っていく。テレビシリーズの常時複数受注と版権ビジネスによって経営が安定化し、新人採用が再開できるようになった際に、会社側は組合に「当面の間オルグしない」と合意を取っていた。けれども結局、数年後に研修生が組合に入ったときには、大ごとにはしていません。もちろん、そこには「もう一度紛争をやったら会社がもたない」という判断があったのかもしれませんが。

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