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黒人に植えつけた憎しみが白人社会に牙をむく──白人の前で黒人は話し方を調整! 人種差別とBLMの現実を撃つ本

文=須藤輝

黒人に植えつけた憎しみが白人社会に牙をむく──白人の前で黒人は話し方を調整! 人種差別とBLMの現実を撃つ本の画像1
Getty Images

 コロナ禍のアメリカで、白人警官が黒人男性を殺害した事件をきっかけに大きなうねりとなった抗議運動「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」。全米各地で暴動や略奪行為も起き、さらに運動の波は世界に拡散した。なぜ、人種差別はなくならないのか。黒人は何に怒っているのか──。こうした疑問に答える本がある。(「月刊サイゾー」9月号より一部転載)

 去る5月25日、米ミネアポリス近郊でアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人警官の不当な拘束方法により殺害される事件が発生した。この事件を機に、ブラック・ライブズ・マター(以下、BLM)と呼ばれる大規模な抗議運動が全米に広がり、それはヨーロッパやここ日本にも波及した。この運動は、なぜここまでの盛り上がりを見せたのか? BLMとかかわりの深い本を読み解きながら、その本質に迫りたい。

「BLMの大きな課題として、アメリカにおける人種差別の克服があります。法的な差別は、1950~60年代にかけて行われた公民権運動の成果である公民権法(64年)と投票権法(65年)で撤廃されたものの、現実的な差別はまだ残っている。これを公民権法が徹底されていないと見るのか、そもそも公民権法自体に限界があったと見るのかで立場が変わってきます」

 そう語るのは、『移民大国アメリカ』(ちくま新書)などの著書がある成蹊大学の西山隆行教授。

「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が有名な演説『I have a dream(私には夢がある)』でアメリカ独立宣言の一部『all man are created equal(すべての人間は平等につくられている)』を引用したように、公民権運動の基本理念は肌の色を問わずすべての人を個人として平等に扱うことであり、それはアメリカの基本原理=個人主義でもあります。しかし、現実的に黒人は個人として認められているのか。認められないのだとすれば、黒人という集団として救済されるべきだという問題提起が、ブラック・ナショナリズムやアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)などの議論につながっていきました」(西山氏)

 このような黒人の問題の複雑性を理解するにあたり、『マルコムX自伝』は現在でも有効だという。

「マルコムXは言わずと知れた公民権運動の活動家ですが、その活動の初期と後期で立場に変化が見られます。もともと彼は分離主義的な立場から出発し、黒人という集団単位で差別を克服することを目指していました。また、キング牧師が『I have a dream』と言ったのに対して、マルコムXは『I see an American nightmare』――つまりアメリカにあるのは悪夢だとまで言っています。それが、最終的にキング牧師の個人主義に接近していく。マルコムXは人種問題について一生をかけて悩み続けた人で、そんな彼の苦悩を通してアメリカにおける黒人の特殊な位置づけが見えてくるはずです」(同)

 その「黒人の特殊な位置づけ」を、父から息子への手紙というスタイルで詩的に語ったのがタナハシ・コーツの『世界と僕のあいだに』であり、哲学者・政治思想家の立場から考察したのがコーネル・ウェストの『人種の問題 アメリカ民主主義の危機と再生』である。

「アメリカ社会には個人の努力だけでは克服できない構造的な問題が横たわっており、黒人として生まれた以上、個人として白人と平等には扱われない。いずれの本も、アメリカで今なお残る白人優越主義が黒人に及ぼす影響をわかりやすく伝えています」(同)

“麻薬戦争”を建前に黒人を大量に投獄

 また、アメリカにおける黒人差別は刑事司法とも深くかかわっている。それを論じた1冊が『The New Jim Crow: Mass Incarceration in the Age of Colorblindness』だ。

「アメリカには1876~1964年にジム・クロウ法と呼ばれる、人種隔離に基づく黒人差別の法体系が存在し、これが黒人から投票権を奪っていました。同法は公民権運動の結果、撤廃されましたが、実質的には“新しいジム・クロウ法”というべき人種隔離政策が行われている。それが黒人の大量投獄(Mass Incarceration)であると著者のミシェル・アレクサンダーは主張します」(同)

 アメリカでは70年代から麻薬の取り締まりが強化されたが、警察が積極的に取り締まったのは主に黒人の間で流通するマリファナやクラック・コカインだった。結果、80年代に入ると刑務所の黒人人口が急増していった。

「そこには人種的プロファイリングがあったと思いますが、政府はあくまで“麻薬戦争”をお題目にしていたため、表向きは黒人差別に見えなかった。しかし、アメリカの多くの州では一度収監されると参政権を奪われますから、実質的な差別は継続している。この問題はBLMを考える上で非常に大きい」(同)

 ちなみにアレクサンダーは、今回のBLM運動の高まりを受けてYouTubeで無料公開されたNetflixのドキュメンタリー『13th-憲法修正第13条-』にも出演している。そして、同書とセットで読みたいのが『監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体』だ。

「著者のアンジェラ・デイヴィスはマルクス主義者の左翼活動家で、本書では人種差別に加えて、世界的に刑務所の民営化が進んでいることに対するある種のネオリベ批判、さらにはジェンダーの問題も交えて論じています。民営化された刑務所は、囚人を安い労働力として使うことで利益を得る。よって、より多くの労働者を確保するために、より多くの犯罪者を取り締まれと当局に要請する。その構造が問題だというわけです」(同)

同じく刑事司法との関連で『黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う』も一読に値するという。

「本書はハーバード大学のロースクールを出た黒人の弁護士であるブライアン・スティーヴンソンが、南部アラバマ州で黒人の冤罪を晴らすために活動するさまを記録したノンフィクションで、『黒い司法 0%からの奇跡』という名で映画化もされています。この弁護士は冤罪で死刑囚にされてしまった黒人たちと接見するのですが、そこで彼らが発した『これがアラバマなんだ』といった言葉などには、研究書にはない生々しさがあります。差別主義的だとされている地域の黒人が、警察や裁判所をどう見ているかを知る上で重要な本ですね」(同)

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