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黒人に植えつけた憎しみが白人社会に牙をむく──白人の前で黒人は話し方を調整! 人種差別とBLMの現実を撃つ本

文=須藤輝

トランプが避けたがる奴隷を解放した女性

 一方、慶應義塾大学の准教授でアメリカ文学や人種理論が専門の有光道生氏は、まず『「ヘイト」の時代のアメリカ史 人種・民族・国籍を考える』を挙げる。

「本書は、人種・民族理論、マイノリティ表象、ジェンダーやセクシュアリティ、移民の歴史などを専門とするアメリカ研究者が書いた論集形式の教科書です。今、アメリカのみならず世界中でパンデミックのようにまん延するヘイトに対する“処方箋”であると同時に、そのさらなる拡散を予防する“ワクチン”としても書かれている本です」(有光氏)

 同書が優れているのは、アメリカにおける差別の歴史を日本の文脈に接続するディスカッション・トピックを設けている点だ。

「歴史を学んだ上で、アメリカ発のBLM運動の意義を日本における黒人差別はもちろんのこと、在日コリアンやアイヌ、性的マイノリティに対する差別・無理解に引きつけて考えることができるんです。さらに、重要文献を紹介するスタディガイドも付いているので、大変親切。多様性を重んじる現代の企業や学校では必読書だといえます」(同)

 なお、現在、同書の共編者である貴堂嘉之氏、執筆者の坂下史子氏と藤永康政氏が登壇したウェブセミナー「緊急リレートーク:ブラック・ライブズ・マター運動の背景と課題」がYouTubeで視聴可能なので、併せてご覧いただきたい。

 有光氏が2冊目に紹介するのは、去る7月17日に亡くなったジョン・ルイスの自伝『MARCH』だ。

「ジョン・ルイスは公民権運動でキング牧師とも共闘した人物で、本書は彼の功績をグラフィックノベル(コミックの単行本)という若者にとってアクセスしやすい媒体で伝えるものです。BLMは黒人差別を撤廃することで、アメリカの国是である自由、平等、幸福追求の権利を全市民に担保しようとするものですが、同様の運動は過去に2回ありました」(同)

 1度目は南北戦争終結後、奴隷制が憲法で廃止された1865年から77年までのリコンストラクション(再建)と呼ばれる期間、2度目が1950~60年代の公民権運動である。しかし、先の西山氏も指摘したように、まだ課題は残されている。

「BLMを第3の再建運動としてとらえるなら、まずそれ以前の再建が残した課題も理解しなければならない。その意味で『MARCH』は、ジョン・ルイスに代表されるさまざまな公民権運動家がどんな犠牲を払い、どんな議論をし、どんな反発に遭いながらアメリカ社会を変えていこうとしたのかを知るには打ってつけの本」(同)

 ところでアメリカにおける黒人差別は、17世紀半ばから1865年まで続いた奴隷制度に起因する。その奴隷制末期に活躍した奴隷解放運動家の記録である『ハリエット・タブマン「モーゼ」と呼ばれた黒人女性』も必読だという。

「南部で奴隷として生まれたタブマンは、命がけで北部に脱出して自由を手に入れます。その後、奴隷にされていた人々の逃亡を手助けする組織『地下鉄道』の一員となり、10回を越える救出作戦を通して少なくとも60人以上の同胞を自由に導きました。さらに、伝説にもなった“超人的予知能力”を駆使して、南北戦争が勃発すると北軍のスパイとして南部に潜入。有名なカンビー川作戦では南軍支配下のプランテーションを襲撃し、725人の奴隷を解放しています。タブマンは、女性として初めて南北戦争中に銃を持って軍事行動に参加した人物でもありますが、戦後は北部で福祉活動にその生涯を費やした本物のスーパーヒーローなんです」(同)

 反人種差別運動において、黒人女性は周縁化、不可視化されてきた。例えば、公民権運動でもキング牧師やマルコムXといった黒人男性が表舞台に立って活躍したとばかり思われているが、実はそんなことはない。タブマンは男性中心主義の歴史認識を覆す人物でもある。

「タブマンの功績は最近になってようやく再評価され、オバマ政権時代、2020年までに20ドル札に彼女の肖像を載せることが決まりました。これは黒人としても、女性としても初の快挙。なぜ今年かというと、アメリカではちょうど100年前に女性が参政権を勝ち取ったからです。ただ、黒人全体に対する投票妨害は続き、それが法律によって禁止されたのは65年の投票権法。しかし、選挙妨害は今でも続いており、BLMも継続して批判しています」(同)

 そして2020年8月現在、20ドル紙幣にタブマンは載っていない。差し止めたのは誰あろう、17年に大統領に就任したドナルド・トランプである。

「現在の20ドル紙幣の肖像は第7代大統領のアンドリュー・ジャクソンなのですが、彼は黒人を奴隷として所有し、ネイティブ・アメリカンを討伐した人種差別主義者で、現代ではすこぶる評判が悪いんです。しかし、トランプ大統領は彼を崇拝し、ホワイトハウスに肖像画を飾っているほど。対照的に、多文化教育を受けてきた若者の間では、人種を問わずタブマンの認知度と人気は抜群に高く、全米には彼女の名を冠した道路や学校、福祉団体なども増えています。今後、彼女がどう記憶・評価されていくかは、アメリカの未来を占う上でも重要な試金石になるでしょう」(同)

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