織田信長は“パワハラ上司”じゃなかった! 戦国時代のアルハラと“明智光秀いじめられっ子説”の出どころ

文=堀江宏樹(ほりえ・ひろき)

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)が、ますます盛り上がりを見せている。ドラマをより深く楽しむため、歴史エッセイストの堀江宏樹氏が劇中では描ききれない歴史の裏側を紐解く──。前回はコチラ

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『麒麟がくる』で織田信長を演じる染谷将太(YouTube「第41回 まとめ | 月にのぼる者 | 5分ダイジェスト | NHK」より)

『麒麟がくる』、最終回が近付くにつれ、明智光秀と織田信長の仲がこじれてきた感がありますね。信長の暴力も、いよいよ激しくなる予感……。

 というわけで今回は、信長による明智の「いじめ列伝」を書いてみようかと思います。

 信長はキツいことを明智に日常的に言っていたようなイメージがありますが、言葉の暴力として一番有名なのは「キンカン頭」でしょう。これは現代語訳すれば「ハゲ」ですね。

 戦国時代の武士には頭頂部を剃りあげる髪型が増えていましたが、頭頂部から毛根が無くなると、その部分は黒ずんでおらず、きれいな肌色になるので、それを柑橘の色に見立てたのでしょうか。

 ただ、某・女性衆議院議員(当時)が運転手の男性に「このハゲ―!」といって怒鳴っていたような、“日常的な悪口”ではなかったようですよ。

 キンカン頭の語句の初出は、『義残後覚』(16世紀末~17世紀初頭成立)という書物です。その内容を意訳しつつまとめると、徹夜で朝まで宴会していなければならない伝統行事である「庚申待(こうしんまち)」の夜、(酔っ払った)明智光秀が庭の隅で立ち小便をしていると、(明智よりも泥酔した)織田信長が「なんで宴席を抜けだして興を削ぐのだ! このハゲ! 憎いやつめ!」などと言って、小便中の明智の首に槍の刃を当てて絡んできたので、明智が「今はご容赦ください」などと言いつつ、放尿し続けた……という実にくだらない逸話が元になっています(笑)。

 信長がめんどくさいオッサンであることは事実ですが、文脈からは「ハラスメント」というより、「じゃれあっている姿」とさえ思えるかも。それもそのはず、『義残後覚』という名前はカッコいいですが、これは江戸時代に流行った小咄集みたいなもので、フィクションですからね。とすると、「明智をハゲ呼ばわりした」という事実があったのかどうかは証明できないわけです。

「明智に飲めない酒を信長が強要した」という説もしばしば見られます。アルハラに悩む人が多い現代では特にこの話は同情を買ってネットで有名になりましたが、こちらも実証性はありません。

 たしかに、室町時代~戦国時代は非常に宴会が重視された社会でした。織田信長と交流のあった宣教師ルイス・フロイスも、日本人たちがめちゃくちゃに酒をあおる姿を記していますね。

 しかし、泥酔したら、その場でゲロを吐いてもそれがギャグとして喜ばれてしまうという、非常にゆるいというか、下品というか、それが当時の宴会の空気だったようです(桜井英治『室町人の精神』)。

 この時代、飲み過ぎゲロのことを、「当座会(とうざのえ)」と雅な言葉で表現しました。本当に室町幕府六代将軍・足利義教の前で、ときの関白・二条持基が「飲みながら、吐く」というアメイジングなゲロ吐き芸を披露し、喜ばれたという記述があるくらい。

 というわけで、もし、明智が本当に酒に弱くて「当座会」してしまったところで、室町~戦国時代の酒のマナー違反というわけではなかったのです。

 その一方、フロイスはその著書『日本史』の中で、信長は「酒は飲まず、食を摂し」、さらに朝は早起きなどと書いてあるので、飲めなかったのは明智というより信長では? という説もよく聞きますね。信長がキリスト教の布教に当初、好意的だったことから、キリスト教徒にウケる「節制できている人物像」のように書いた“だけ”かもしれませんが……。

 信長からは明智にパンチやキックといった身体的な暴力も加えられたといわれます。こちらも検証していきましょう。

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