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『麒麟がくる』まるで宇多田ヒカルの歌詞のような結末──歴史エッセイストが今期大河を大総括!

明智と信長、日本史屈指の“関係性萌え”は描き切れたのか?

『麒麟がくる』まるで宇多田ヒカルの歌詞のような結末──歴史エッセイストが今期大河を大総括!の画像3
「本能寺焼討之図」(明治時代、楊斎延一画)

──私も最初に「明智光秀が主役の大河」と聞いた時、“光秀と信長の濃厚な男のドラマ”つまりブロマンス的なものを期待してしまったんですよね……。最終回になって信長が「2人で茶でも飲んで暮らさないか」なんてプロポーズのようなセリフを光秀にささやいていましたが(笑)、そこに至るまでの2人の関係性の描き方は、少々物足りない感じもしました。

堀江 信長へのもっと濃い愛、そしてそれゆえの憎しみという要素を出せば、もっと盛り上がったと思いますね。『シン・ゴジラ』でも長谷川博己さんは主演を務め、自分の感情をなるだけ抑え、粛々と仕事をこなしていく姿を演じたことで俳優としての新境地を切り開かれました。独特の色気もあったので、それへのオマージュだったといえるかもしれませんが。

──光秀と信長の出会いから2人の関係性が濃くなっていくのをずっと期待していたんですが、薄味のまま進んでしまった感が否めません。

堀江 確かに今回の明智は、信長にそこまでの思い入れもなく見えて、僕も物足りませんでした。「信長=ゴジラ」で、感情の安易な投影などできない“未知の対象”ということだったのかも(笑)。

 それでも2人にしかわからない“絆”が、彼らにはあったのだとは思いますが、それが最終回で一気に爆発したのは、少なからず意外でした。

「明智が謀反したかー!」と叫んで、なぜか笑顔でうれしそうな信長の姿には、グッとくるものがありましたが……。「愛」とかわかりやすい言葉には還元できない特殊な“絆”が、2人にはあるのでしょうかねぇ。

──創作物ではブラック企業に例えられがちの織田家ですが、史実ではそこまででもないんですよね?(参照記事

堀江 そうなんですけど、やっぱり信長は明智にDVしてこそナンボみたいですね。明智が殴られるほどに『麒麟~』の視聴率もV字回復したという記事、サイゾーでしたっけ、読みました(笑)。

 そのDVの背景を、もう少し濃い味付けで描いてもらえれば、もっともっと盛り上がったのかな、と。というか普通は盛り上がるであろう合戦シーンや、主従愛といった要素ほどスルー気味という不思議なチカラ加減が貫かれた戦国大河でしたねぇ。

──近年の戦国大河では、『真田丸』(2016)『おんな城主 直虎』(2017)なんかが特にオタク受けしていたイメージがあります。しかし、今回は、オタク層には刺さっていなかった感が強いです。

堀江 もったいないですよね~。一部の歴女が愛してやまない日本史屈指の“カップル”が明智と信長なのに。たぶん、今、彼の人生で一番美しい時期にいるであろう長谷川博己さんと、信長役でビジュアルをガラッとワイルドな方面に切り替えた染谷将太さんのお2人を起用しておきながら……。

 余談ですが、ブロマンスを描いたドラマや、直球のBLドラマが、日本でもはやりつつありますよね。あのジャンルの脚本でも輝ける作家さんにお頼みして、石田三成目線で秀吉を描いたりすると「大河ドラマ」も一皮むけることができるかもしれませんね(笑)。

──それでいうと、2023年の『どうする家康』(主演:松本潤)は脚本家が『相棒』シリーズや『探偵はBARにいる』シリーズなど、男性バディものに定評のある古沢良太さんなので、期待できるかもしれませんね。

堀江 あれこれ言いましたが、本作にかかわった皆さんには、1年以上もの間、本当にありがとうございました──とお礼申し上げたい気持ちでいっぱいです。そして『麒麟~』の話題は尽きませんが、次の作品『青天を衝け』にも期待したいと思います!

堀江宏樹(作家/歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。原案監修をつとめるマンガ『La maquilleuse(ラ・マキユーズ)~ヴェルサイユの化粧師~』が無料公開中(KADOKAWA)。ほかの著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)など。最新刊は『隠されていた不都合な世界史』(三笠書房)。

Twitter:@horiehiroki

ほりえひろき

最終更新:2023/02/21 11:55
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