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ドラッグで宗教的体験は得られるか──参加できるのは選ばれた者だけ? サイケデリックスの神秘性を問う

文=里中高志(さとなか・たかし)

──特殊なお茶”を販売した男性が、麻薬及び向精神薬取締法違反の罪に問われている裁判が、一部で注目を集めている。お茶に幻覚物質が含まれていたというが、植物性の幻覚剤は、しばしば宗教儀礼にも使われてきた歴史がある。果たしてそれは、本物の神秘体験をもたらすのだろうか。(「月刊サイゾー」12月号より一部転載)

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『雑草で酔う~人よりストレスたまりがちな僕が研究した究極のストレス解消法~』(彩図社)

 京都地裁で行われているある公判が、ひそかに注目を集めていた。被告の男性が逮捕された容疑は、麻薬及び向精神薬取締法違反。幻覚物質ジメチルトリプタミン(DMT)を含有する樹木アカシアコンフサ(和名ソウシジュ)の飲用粉末、通称アカシア茶を製造したことによる。

 罪に問われている青井硝子というペンネームの被告(34)は、『雑草で酔う 人よりストレスたまりがちな僕が研究した究極のストレス解消法』(彩図社)という本を2019年に発行している。同書によると、著者の青井氏は社会になじめず軽トラック暮らしをしているうちに、雑草をタバコとして吸うことに目覚め、ネットで情報交換をしながら、あらゆる種類の雑草を試し、変性意識という特殊な意識状態を何度も体験したという。

 本の前書きには、「知っていますか? 雑草って、巻いて吸うと面白いんですよ。便秘が治る草もあるし、気分が昂揚したりまった~りしたりする草もあって、中にはすごい幻覚を見たりする草も」と書いている。いわば確信犯であるが、確かに本に登場する草は普通に自然の中に存在するもので、これを採取すること自体は罪ではない。

 裁判の元となった事件の発端は、19年7月。ひとりの大学生がアカシアの樹皮を購入し、お茶にして飲んだところ、意識が朦朧として病院に搬送され、尿検査でDMTが検出された。この大学生がアカシアの樹皮を購入した先が、青井氏が運営していた「薬草協会」だったのである。

 明治大学准教授で、『彼岸の時間―〈意識〉の人類学』(春秋社)などの著書がある蛭川立氏はこの公判に注目して傍聴に通い、青井被告とも接見を重ねている。蛭川氏が言う。

「一口にドラッグと言いますが、その作用は大きく、抑制剤と興奮剤、そして精神展開薬、いわゆる幻覚剤の三分類に分かれます。今回裁判で問題になっているアカシア茶に含まれるDMTは、このうちの精神展開薬ですね。アカシア茶と同じDMTを含む薬草から作られる飲料であるアヤワスカ茶は、南米のアマゾン川上流域の先住民が変性意識状態に入るために使ってきた歴史があり、それと同じ種類のお茶が日本の裁判で議論されていることに、私は関心を寄せています」

 裁判で青井氏は「法律では、DMTは麻薬として規制されているが、DMTを含む植物は規制の対象外だと明文化されており、アカシア茶は植物の一部分である」と主張しているのに対し、検察側は「アカシア茶は植物からDMTを分離し抽出したもので、麻薬である」と述べており、議論のすれ違いが続いている。蛭川氏が続ける。

「アカシア茶に含まれるDMTのような物質は、精神展開薬(サイケデリックス)または幻覚剤とも呼ばれ、これらは南米などで先住民族が宗教体験を得るために利用されてきました。現在ではうつ病などの治療薬としても研究されています。注目するべきは、今回の事件のきっかけとなった大学生。彼は重度のうつ病で自殺念慮があったのですが、自分で勉強してDMTに抗うつ作用があることを知り、精製されていなければ合法だと考え、アカシア茶を飲んだ結果、たった2時間で無限の宇宙に放り出されるような体験をして非常に恐怖を感じたものの、人生観が変わり、死にたいという気持ちがなくなったと主張しているのです。青井氏は生きづらい人に楽になってもらうためにお茶を振る舞ったのであり、これは仏教における菩薩行であると、初公判でサンスクリット語の仏教用語を交えながら罪状を否認しました。これには驚きました」

 この種の薬物裁判は被告が反省して不起訴か執行猶予になるケースが大半で、被告が「自分が行ったのは宗教行為である」として罪を認めず、全面的に争うケースはほとんど前例がないという。混迷を極める裁判は公判を重ねるごとに傍聴人が増えてきているとのことだ。

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