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シャーマンもラッパーも韻を踏んで言葉が「降りてくる」 モンゴル産ヒップホップの隆盛を人類学で読み解く!

シャーマニズムとヒップホップの共通点とは?

――シャーマニズムに傾倒するラッパーもいるそうですが、島村さんはモンゴルにおいてヒップホップとシャーマニズムは「グローバルなネオリベ・ウイルスに抗するローカルな文化の免疫系」として共通するものがある、と指摘されていました。

島村 モンゴルではヒップホップが流行るのとほぼ同時期にシャーマニズムが流行って、一時期(2010年頃)は人口の1%がシャーマンになったほどです。モンゴルでは日本とは比べものにならないくらい激しい学歴競争があり、貧富の格差がある。どちらも、そういう中で起きた現象です。ある意味では競争から脱落してしまった人たちが敗者復活できるシステムとして、シャーマンになって自他ともに救うという選択肢がある。ラッパーにも通じるところがあって、社会的な役割や位置づけが似ています。

 また、シャーマンは半獣半人のような姿をして大きな太鼓を叩きながら、ラッパーはマイクを片手にリズムに乗りながら、共に韻を踏む点も共通している。伝統文化としてのシャーマニズムと外来のヒップホップが、にじり寄るように併走しているのが興味深いところです。

 私はもともと2000年頃にシャーマニズム研究からヒップホップに興味を持つようになったんです。辺境でフィールドワークをしていると、シャーマンが韻を踏みながら祈祷して精霊を憑依させている。調査を終えて首都のウランバートルに戻ると、今度はFMラジオでラッパーが韻を踏んでいるのが聞こえてくる。それが印象的で、何か関連があるんじゃないかとずっと思っていたんです。

 そんな矢先に、私と長年付き合いのあるドライバーがシャーマンになっちゃったもので、「精霊が入るって、どういうことなの?」と聞いてみたら、「韻を唱えているうちに、自分が考えていることとは別の言葉が自然に口から出てくる。自分でも『何言ってんだ?』と思いながらも口から出てくる。それが精霊なんだ」と。それでヒップホップについて調べてみたら、モンゴルでも日本でもラッパーはフリースタイルをしていると「降りてくる」瞬間があって、そのとき言葉が勝手に紡ぎ出されるというような表現を使っていた。つまり憑依現象とは、韻を使うことで自分が意識的に操作するのとは別の言語を編み出す技法ではないかと思うようになったんです。

――最後に、島村さんが最近注目しているラッパーを教えてください。

島村 女性のラッパーが元気なのもモンゴルの特徴で、例えばNENEという、まだ20歳で心理学を学んでいる学生ラッパーが面白いですね。彼女は韻をあまり踏んでいないんですけど、ものすごいフロウです。

 チル系では、馬頭琴とコラボしたNMNの「tsahilbaa(火花)」という曲が非常に気持ちよく、これもおすすめです。

 それから、モンゴル北方にはロシアとの国境をまたいで住んでいるモンゴル語系の言語を話すブリヤート人(ブリヤート・モンゴル人)がいて、そこでは日本の東北弁を彷彿とさせるような丸みのある「方言」が使われています。ロシア側のブリヤート人が、ブリヤート語でラップした曲が、モンゴル国の都市部のウランバートルの若者にクールなものだと思われているんですね。

 国境をまたいだ現象なので単純に日本と比較できませんが、日本では地方の言葉で歌を唄うことはあまり流行っていませんよね。しかし、ブリヤート人の歌うこの「TONSHIT(手を叩け)」という曲は、モンゴル国の首都でメジャーな存在になっています。これも現象として興味深いところです。

(プロフィール)
島村一平(しまむら・いっぺい)
1969年、愛媛県生まれ。国立民族学博物館准教授。文化人類学・モンゴル地域研究専攻。博士(文学)。早稲田大学法学部卒業後、テレビ番組制作会社に就職。取材で訪れたモンゴルに魅せられ制作会社を退社、モンゴルへ留学する。モンゴル国立大学大学院修士課程修了(民族学専攻)。総合研究大学院大学博士後期課程単位取得退学。滋賀県立大学准教授を経て2020年春より現職。著書に『増殖するシャーマン モンゴル・ブリヤートのシャーマニズムとエスニシティ』(春風社)、編著に『大学生が見た素顔のモンゴル』(サンライズ出版)などがある。

 

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2021/03/30 12:00
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