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『WHITECUBE』リリースインタビュー

Daichi Yamamoto「音楽や芸術は差別や分断をチャラにできる」隔絶されたスタジオからの願いが込められた最新作

世界の決めつけや無理解に疲弊した結果の「Love+」

――とはいえ、自身としてはドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』のエンディング曲「Presence Ⅳ」を担当したり、頭一つ抜けた活躍をされています。そうした大きな舞台での仕事が、音楽に対しての意識を変えたのでしょうか?

Daichi あまり変わってないと思います。でも、自分が思ってるポップは良い意味で周りが思ってるポップじゃない、と感じ始めました。高い声でメロディを歌ったり、歌詞の内容に「こんなことしちゃダメかな」という線を引いていて、それを超えるのが不安だったんです。だけど、そのNGラインを超えたものを周りの人に聴いてもらうと良いリアクションをもらえて、自分と周りの人の感覚って全然離れてるんだなって。

――具体的にその曲というのは?

Daichi 「Love+」ですね。ハードなヒップホップが好きな人からのリアクションは少なかったんですけど、父親に聴かせたときに「めっちゃええやん!」と褒められてハッとしました。そもそもお父さんは、いわゆるメロウな曲は好きじゃないパブリック・エネミー世代なので、ラップはガシガシしてないとっていう考えなんです。それもあって自分は表現の幅を狭くしていたのかなと思いました。

――「Love+」を聴くと、明確に触れてなくても2020年にいろいろと思うことがあったのだろうなと感じてしまいます。

Daichi そうですね……ありました(笑)。なんとも言えない気持ちになった1年だった。今日もそれを新幹線で考えてまして。

――同曲の「分断されてる世の中で」というリリックには、BLM運動の高まりに対しても、人より何倍もの考えをめぐらせたのではないかと感じています。

Daichi 一言で言うと、疲れちゃったというか。こんなことを言ってしまったらがんばって活動をしている人に怒られてしまうかもしれないけど、どれだけ伝えようとしても表面でしか捉えられなかったり、面白い話としてしか扱われなかったりとか、揚げ足取りあったり、本当にわからなくなってくる。純粋になぜ知りもしないのに、見た目や生まれとかで、人をカテゴリーにはめて蔑んだり、嫌いになれるのかがよくわからない。個として向き合ったら、そのカテゴライズ絶対おかしいってなると思うんです。

――そんなときに人をカテゴライズせずに向き合おうとするDumb Typeの作品や古橋悌二氏の言葉に出会い、共感することもあったのでしょうか?

Daichi 共感はもちろんあったんですけど、音楽や芸術の世界はそういったことをチャラにできる分野に感じていて。だから最初は作品に共感というより、漠然としてかっこいいなと思ったり、心が落ち着いたり、安心する感覚がありました。

――落ち着きや安心を感じて惹かれた、ということなので「疲れた」というのは、本当に素直な意見なのだと思います。

Daichi 父がレゲエバーをやってるんですけど、差別は相手のことを知らないから生まれてるんだと思っていたようで、だから「ブラックカルチャーはかっこいいんだって思わせたら勝ちだ」と昔から言ってたんですよね。その言葉を強く意識してるわけじゃないけど、ベースにはあるというか。とやかく曲で言うより、めっちゃええやんって曲で思わせるほうが意識は変えられる気がする。余談ですけど、イギリスにいたときも日本の文化がカッコいい! って話しかけてくれる人がたくさんいたので。“かっこいい”って強いなって思いました。

――最後に、7月30日の大阪、8月11日に東京で行われるワンマン・ライブに向けての意気込みを。

Daichi いい感じにできたら、と思っています。

――ステージとスタジオ、どちらが好きですか?

Daichi ……スタジオのほうが好きです。

 こうしてDaichi Yamamotoは、隔離された空間ともいえるスタジオへと戻るのだろう。しかし、インタビューを通して明らかになったように、隔絶された空間を銘打ったタイトルであっても、外の世界との繋がりの延長が積み重なって出来上がっている。そしてスタジオの外で起きているノイズに、ひとりの人間として彼は迷い、疲れ、揺さぶられた感情が制作に反映される。だからこそ、同じ時代に生きる聞き手としての我々は、より敏感に曲に織り込まれた感情に揺れに同調することができ、彼のアートが一方通行なものではなくなるのかもしれない。

Daichi Yamamoto「音楽や芸術は差別や分断をチャラにできる」隔絶されたスタジオからの願いが込められた最新作の画像3
写真/cherry chill will.

[プロフィール]
DAICHI YAMAMOTO(だいち・やまもと)
1993年、京都府生まれ。日本人の父とジャマイカ人の母親を持ち、19歳からラップ/サウンド・メイキングをスタート。地元京都で精力的に活動し、大学進学で渡英。SoundCloud上にアップした楽曲が話題を呼び、帰国後にJazzy Sportと契約を結ぶ。
Twitter〈@daichiyamoto〉
Instagram〈daichibarnett〉

Daichi Yamamoto「音楽や芸術は差別や分断をチャラにできる」隔絶されたスタジオからの願いが込められた最新作の画像4
『WHITECUBE』

『WHITECUBE』
Daichi Yamamoto
Jazzy Sport

斎井直史(音楽ライター)

1986年、埼玉県生まれの音楽ライター。主にヒップホップを軸に数々のメディアで執筆。音楽系ウェブメディア「OTOTOY」で「パンチライン・オブ・ザ・マンス」を連載中。

Twitter:@nofm311

さいいなおふみ

最終更新:2021/07/23 09:58
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