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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.654

実話ホラー『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』 1980年代の米国で開かれたオカルト裁判の顛末

日本でも起きた平成オカルト裁判

収容されたアーニーのために、ウォーレン夫妻は悪魔の存在を証明することに。

 日本でもオカルト裁判は起きている。特に有名なのは、地下鉄サリン事件と同じ1995年に発覚した「福島悪魔払い殺人事件」だ。女性祈祷師は「除霊」と称して、信者を太鼓のバチで叩き続け、6人を死に至らしめている。女性祈祷師の弁護人は「宗教的な確信から行なったもので、暴行や死という認識がなかった」と無罪を主張。対する検察側は、女性祈祷師と男性信者との間に肉体関係があり、人間関係や金銭関係のもつれから女性祈祷師は信者たちに暴行殺人を命じていたと告発した。

 さらに記憶に新しいものとして、2012年~2014年に起きた「声優のアイコ」による昏睡強盗事件をめぐる裁判も、オカルトめいたものとなった。コンビニの防犯カメラに映っていた「声優のアイコ」が美形だったことから、マスコミの注目が大いに集まった事件だった。

 被告は多重人格(解離性同一性障害)であり、日常生活は男性として過ごしていた被告が犯行時は「アイコ」という女性人格に変わり、知り合った男性を睡眠薬で眠らせ、金品を奪ったという事件だった。被告は犯行時の記憶がないことを主張。法廷には被告の無罪を訴える幼い男の子の人格「ゲンキくん」も現れ、裁判は混乱に陥った。さらに性同一性障害でもあった被告は、父親が不明のまま獄中出産を遂げている。謎づくしの裁判だった。

 映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』では、ウォーレン夫妻は裁判記録には残っていない一連の事件の黒幕を探り出す。物語のクライマックス、夫妻が見たものは人間が抱える深い心の闇だった。長年にわたる人間社会の因習の歪みがもたらした純然たる悪意と、固い信頼関係で結ばれた夫妻は対峙することになる。

 映画の終わりには、実際にあった「アーニー・ジョンソン事件」の裁判の結果も語られる。ウォーレン夫妻の証言は、はたして判決にどれだけの影響を与えたのだろうか。悪魔に苦しめられたアーニーだが、彼が刑務所から釈放されるのを婚約者デビーはずっと待っていた。背筋を凍らせる悪意が存在する一方、尊い愛も存在する。おそらく、愛の力がほんの少しだけ悪意の総量よりも上回っているから、今のところ人類は存続できているのではないだろうか。

 

『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
監督/マイケル・チャベス 脚本・原案/デイビッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック 製作・原案/ジェームズ・ワン
出演/パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー、サラ・キャサリン・フック、ジュリアン・ヒリアード
配給/ワーナー・ブラザース映画 R15+ 10月1日(金)より全国ロードショー
(c)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
https://wwws.warnerbros.co.jp/shiryoukan-muzai/

最終更新:2021/09/25 12:07
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