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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.674

自宅が全焼してしまった監督一家のドキュメント『焼け跡クロニクル』

火事現場で見つかった、焼きただれたフィルム

自宅が全焼してしまった監督一家のドキュメント『焼け跡クロニクル』の画像3
焼け跡から見つけたフィルムを編集する原監督。双子の姉妹が父の仕事ぶりを見守る

 火事から3日後、まおりさんは炊飯器を買ってきて、ご飯を炊く。少しずつだが、日常生活を取り戻し始める。原監督もいつまでも落ち込んでいられないと、火事現場に再び向かい、焼け残っていたフィルムを引っ張り出してくる。煤だらけで、焼けただれたフィルムの中から、長男が保育園に通っていた頃のものを見つけ、切り取り、つないでいく。過去の記憶を拾い集め、バラバラだったものをひとつに編集していく。原監督もまた、映画監督としての日常を取り戻そうと努める。

 まおりさんがスマホやタブレットで撮った映像に加え、傷の癒えた原監督が新たに8ミリフィルムで撮った映像、さらに火事現場から集めた過去のフィルムもつなぎ合わせ、3年がかりで新しい映画『焼け跡クロニクル』が誕生した。壊れた陶磁器を金継ぎしたかのような、世界のどこにもない家族の強いつながりを描いた記録映画となった。

 原監督の人気作『20世紀ノスタルジア』は、高校時代の広末涼子が映画仲間の残した映像を編集し、新しいラストシーンを加えることで未完成の映画を完成させる、ドキュメンタリータッチの青春映画だった。女優デビューしたばかりの広末涼子の弾けるような笑顔がまぶしく記録されている。『焼け跡クロニクル』には、原監督夫妻にとっての「天使」である子どもたちの成長ぶりがまぶしく映し出されている。子どもたちが放つ生の輝きを、まおりさんから受け継ぐ形で原監督がカメラに収め、映画として完成させることになる。原監督夫妻にとって、カメラを回すこと、映画をつくることは、生を肯定することに他ならない。

 映画の終わりに、観光名所でもある京都の見慣れた風景が流れるが、原監督が精神的にも復活したことを示すかのように、色鮮やかに映し出される。映像とはこんなにもカメラを回す人の心情に感応するものなのか、という驚きがある。突然の不幸に見舞われた家族を記録した映像は、どん底状態から立ち直ったタフな一家の物語『焼け跡クロニクル』へと生まれ変わった。『焼け跡クロニクル』が映し出しているのは、不幸な過去の記憶ではない。明るい未来が、幸せの匂いがこの映画からは感じられる。

 

『焼け跡クロニクル』
監督・撮影・編集/原まおり、原將人
配給/マジックアワー 2月25日(金)よりシネスイッチ銀座、3月4日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
©2022『焼け跡クロニクル』プロジェクト
yakeato-movie.com

最終更新:2022/05/17 15:41
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