『THE BATMAN－ザ・バットマン－』――リドラーはジョーカーを超えられない

でも、これはこれでウマい

　ノーランと同じ土俵で勝負するのは、分が悪い。だったらいっそ、バットマンのキャラクターを使って違う映画を作ればいい。チャンドラー風の、ハードボイルド探偵ものという映画を。これはいい手だ。3時間近くもある尺は、込み入った物語をさばくためのものではない。観客を1分でも長く、いぶし銀のハードボイルドに浸ってもらうための計らいだ。

　やはり、マット・リーヴスはカレーではないものを作ったのだ。肉じゃがにご飯を添えたものを出して「肉じゃがカレー」と言い張った。

　当然、客は聞き返す。「これ、カレーじゃないよね？」。マット店長は答える。「あ、でもカレーに入れる牛肉とじゃがいもは入ってますし、カレー皿に盛ってますから」

　客はスプーンを口に運びながら言う。「どう考えてもカレー食べてる気がしないんだけど、まあいいか。これはこれでウマいから」

　そういう映画である。これはこれでウマい。

■タイトル:『THE BATMAN―ザ・バットマン―』

■公開中
■配給:ワーナー・ブラザース映画
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稲田豊史（編集者・ライター）

編集者／ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち　ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』（光文社新書）が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人　人生に寄り添う国民食の誕生』（朝日新書）、『オトメゴコロスタディーズ　フィクションから学ぶ現代女子事情』（サイゾー）、『「こち亀」社会論　超一級の文化史料を読み解く』（イースト・プレス）、『ぼくたちの離婚』（角川新書）などがある。

いなだとよし