日刊サイゾー トップ > エンタメ  > 11年後に振り返る“復興活動から離れた理由”
「どこまで行ったら復興なのか?」はゴールのないマラソン

『ねほりんぱほりん』3.11の11年後だから振り返られた、“復興活動から離れた理由”

復興に関わり、ヒーロー扱いされて重荷になる

 番組は、スタジオゲスト以外の方にも“復興から離れた理由”を取材していた。

 福島で農業をやっていたノリコさん(30代)は、風評被害で野菜が売れなくなった状況から「自分が伝えなくて誰が伝える」と使命感を抱いたそう。県外から人を招いて農業体験を開いたり、復興ツアーやイベントの企画に携わるようになったのだ。それほどの使命に燃えていた彼女は、どうして復興活動を卒業したのか?

「(メディアで)『若い女性が農業を発信してますよ!』って“時の人”みたいな感じで(苦笑)。『テレビ見たよ、頑張ってるね』とか、良くも悪くも頼られる。頑張れば頑張るほどそういう目で見られるし、『何かいろいろやってくれるのかな?』って期待されることが何年もあったし、弱みを吐き出せる状態がなかったり気丈に振る舞ってしまうことも多かったし、そういったところで(心の)バランスが崩れてしまったのはあったかなと思います」(ノリコさん)

「復興に関わりたい」とピュアな気持ちで始めた活動だったが、存在が目立つといつしか持ち上げられ、美談として消費される。傍からは、熱量の高い“メシア(救世主)”と見なされる。メシアには、助けてほしい人が集まってくる。でも、高揚は長く続くものではないし、ヒーローと持ち上げられた当人は精神が削られる。期待する側に悪気はないが、数少ない若者に期待を寄せてしまうのは“田舎あるある”でもある。注目されたら重荷になるし、ヒーローの振る舞いを義務付けられる。“時の人”ならではの重圧だ。ボランティアは素晴らしいが、本人の身を削るボランティアには限界がある。ヒーローを作り、祭り上げたがる構図は不健全だ。

 震災から5年過ぎた頃、ノリコさんは故郷を離れて県外に移住した。そういえば、マドカさんに限界が訪れたのも5年目だった。ターニングポイントなのか? 使命感を背負うと復興活動は大変だ。

 震災のこういう切り口は、今までになかった。この観点からのメッセージも絶対に知っておくべきである。

「復興活動は承認欲求のためだった」は是か非か?

 2人目のゲストは、東北沿岸部出身のエミさん(20代)。彼女は中学生の頃に被災し、自宅は津波で流されてしまったという。

 震災直後、エミさんが避難所にいると町の人が避難物資を運んでいた。「手伝います!」と彼女は申し出たが、「中学生は子どもだからいいよ」と何もさせてもらえなかった。力になりたいのに、子ども扱いで相手にされない。当人からするとつらかったはずだ。

 その後、親戚の家に避難をしたエミさんは近所の避難所でお手伝いをするようになった。物資を仕分けたり、小さい子どもたちの世話をしていると「町の一員になれた」と達成感を覚えることができた。さらに、彼女は町づくりを提案するプロジェクトに参加したり、自身の被災経験を話す「語り部」の活動を行うようになった。

「そこのイベントでお話をさせてもらうと、自治体のお偉いさんとか有名大学の教授から、すごくお褒めの言葉を言われるんですね。『高校生なのに本当にすごいね』『あなたの町は未来が楽しみだね』って、すごく言われるんですよ。だから、もう……承認欲求が満たされまくり(笑)!」(エミさん)

 いろいろな大人と知り合い、高校生でありながらFacebookでは500人の友人とつながったエミさん。そして、彼女の承認欲求は暴走する。

「Facebookをいかに更新するかが私の目的になっちゃって、行かなくてもいいイベントにわざわざ顔を出したり、復興で新しくできた施設に足を運んで写真を撮って投稿したりとか(笑)」(エミさん)

 承認欲求は行動力につながるが、行き過ぎるとやっぱり怖い。諸刃の剣だ。目的を見失っているし、手段が目的化している。“誰かのためのボランティア”が“自分のための活動”にすり替わるのは、よく聞く話である。高校時代、エミさんには彼氏がいたが、彼女の恋愛に対する姿勢はドライだった。

「いろんなところで“復興のリーダー”みたいな扱いをされるので『いい子でなきゃいけない』っていうのがあって、チャラついたことはあんまりできないし、デートに誘われるんですけど『いや、その日はボランティアが入ってる』とか」(エミさん)

 彼氏を作ることは、別にチャラついた行動ではない。「“復興のリーダー”は正しいことをしなければならない」と、自分に変なプレッシャーを掛けてしまったのだろう。承認欲求は原動力になるが、自らを縛る力にもなりかねない。

 その後、エミさんは「地元の復興に役立ちたい」と町づくりを学べる東京の大学へ進学した。上京し、彼女はある違和感を覚えたという。

「テレビで『仮設商店街ができました』のような震災関係のニュースが少ないことにすごく驚いたんです。温度感が違うなと。みんながみんな震災に興味を持ってるわけじゃないんだと、ちょっと寂しい感じがしました」(エミさん)

 直接的な関係があるのとないとでは、温度差がどうしても生まれる。数年経つと、当事者以外の関心が薄れるのは無理もない。大学でエミさんは被災地支援のボランティアサークルに参加した。

「私が(大学に)入ったときって震災から4~5年経っていて、率先してボランティアに行きたい人は徐々に減っていて『集客が全然できてないじゃん! 今回は中止じゃない?』みたいなことがあって、結構それは悲しかった……。ボランティアサークルの中では『被災地ではふざけちゃいけない。ボランティア以外では行っちゃいけない』みたいな空気感がすごいあって。本当はもっと気軽に、自分の地元に来てほしいんですね。それがちょっとズレてると感じて、そのサークルはやめちゃったんです」(エミさん)

 エミさんの言う「気軽に来てほしい」は本音のはずだ。ただ、震災当時に「遊びで被災地に行くなんて不謹慎」という空気があったのは事実。覚悟を持った復興支援者以外、普通の人は足を運びづらかった記憶がある。ピントの外れたサークル側の判断が理解できてしまうだけに難しい。

 サークルをやめたと同時にエミさんは語り部の活動も卒業。復興活動から離れる宣言をSNSに投稿した。友人たちからは「今までお疲れ様」「頑張ったね」というコメントが寄せられた。

エミ 「『もっと続ければいいのに』みたいな引き留める言葉が誰からもなくて(苦笑)。『あ、求められてなかったんだ』みたいな感じで……」
YOU  「そんなことないよ」
山里 「それ、難しいところですよね。求められてなかったっていうより、引き留めることってすごく無責任な行動な感じがしちゃうんですよね、僕なんかは」
エミ 「でも、私はわりと承認欲求のためにやってた部分があるから(笑)。まあ、区切りは結構ついたっていうか」

 復興活動から卒業した彼女は、唐突にガールズバーのアルバイトを始めたそうだ。

「今までいい子ちゃんでやってきてタガが外れたっていうか、解放されて」(エミさん)

 ただ、頭の中では震災のことをずっと気に留めていた。

「ガールズバーのバイトで出会った子が印象に残っていて。同じ年くらいのバチボコのギャルが『地元、どこ~?』みたいな感じで聞いてくれて『私、被災地出身なんだよ』って言ったらガラッと態度が変わって、『そのときってどういう経験をしたの?』って真剣な表情で聞いてきて。そういう子たちって勝手に『震災に興味はない』って思ってて。でも、本当はこういう人たちに私は経験を話したかったんじゃないかなって思いました」(エミさん)

 自らの行動を「承認欲求のためだった」と言い切ったエミさん。それはそれで良かったのかもしれない。やらない善よりやる偽善だし、それをあっけらかんと打ち明けられる彼女は逆に信用できる。ボランティアは聖人君子ばかりやるものではないし、自分ありきでボランティアするくらいのほうがいい。いつかまた、承認欲求と復興支援が重なったらバチボコのギャル相手に被災経験を話せる日が来るといいと思う。

「今後は、“地元のため”じゃなくて“自分のため”。で、“自分のため”がゆくゆくは“地元のため”になるんじゃないかな……っていうふうに考え方を変えてやっていければなと思ってます」(エミさん)

 中心を変えようとする彼女の切り替えは正解だと思う。誰かの幸せを目指して動くなら、それ以前に自分が幸せでなければならない。誰かのための献身はいつか力尽きるし、「自分のためにやっていたら結果的に誰かのためになった」くらいがベストである。

 復興活動をする人はヒーローのように見られがちだ。でも、その人たちだってつらい思いをしている。そんな当然のことを気付かせてくれた今回。11年経った今だからこそ、やっと明かせる悲喜こもごもだった。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2022/03/18 20:00
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