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長寿番組に大ナタを振ったNHK、『チコちゃんに叱られる!』はどうなる? 最近の迷走に思う不安

店員さんの「いらっしゃいませ」と徳川家康の関係?

 この日2つ目のテーマは、「なんで店員さんはお客さんにいらっしゃいませと言うようになった?」であった。はて、店員間の万引き防止の掛け声か? それとも、桂文枝からの影響? 「いらっしゃいませ」といえば、アップダウン・阿部浩貴の「『いらっしゃいませ』が『エアロスミス』に聴こえる経堂駅前のコンビニ店員」のネタが印象深いが。

 さて、チコちゃんが発表した正解は「徳川家康が東海道五十三次を整備したから」であった。やっぱり、意味不明な答えだな……。詳しく教えてくれるのは、明治大学文学部の齋藤孝教授である。『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)でおなじみの齋藤先生だ。

 そもそも、「いらっしゃいませ」が使われるようになったのは江戸時代中期~後期で、それまでは「おいでなさいまし」と言ってお客さんを迎えていたそう。いらっしゃいませは、「来る」の尊敬語の「いらっしゃる」と、言葉を丁寧にする「~ます」の命令形「ませ」がくっついてできた「いらっしゃりませ」が原形で、意味は「こっちにおいでなさいませ」だ。現在は店内で使われる言葉だが、かつては外のお客さんを呼び込む言葉だったのだ。では、客引き時の「おいでなさいまし」が「いらっしゃいませ」に変わった理由は? 

「それは、徳川家康が東海道五十三次を整備したことが大きく関係しています」(齋藤先生)

 日本橋から京都を結ぶ全長492キロメートルの東海道を整備した家康。そうすることで、朝廷への荷物を早く届けようと考えたのだ。この東海道はお伊勢参りなどで多くの一般の人々も利用しおり、東海道には約3000軒の宿がひしめき合っていた。中でも、愛知県名古屋市熱田区にあった宮宿は激戦地、どの宿に入ろうか迷う客を捕まえる客引き合戦が起こっていた。

 江戸時代の浮世絵師・歌川広重の作品を見ると、力づくで客を引っ張り連れ込もうとする客引きの様子がはっきり描かれている。この辺りは今とあまり変わってないし、「客引きって伝統だったのか!」と膝を打った。まあ、こういうのはもう条例違反だけれども……。とにかく、客引き合戦で使われていたのが「いらっしゃいませ」という言葉だったのだ。

「もともと、客を呼び込むために使っていた『おいでなさいまし』は丁寧な感じがしますが、その分、活気があまり感じられません。『いらっしゃいませ』だと威勢が良く、活気のあるお店と感じられませんか? つまり、『いらっしゃいませ』は、どのお店に入ろうか迷ってる客に『活気のあるお店だ』とアピールするために使われ始めたんです」(齋藤先生)

 その後、「いらっしゃいませ」は全国へ広まっていく。そして、時代と共に強引な客引きは少なくなり、店内で言う現在のスタイルに変わっていったのだ……という解説に、再び物申したい。今回のテーマで正解とされる「徳川家康が東海道五十三次を整備したから」は「いらっしゃいませ」が全国へ広まった理由でしかなく、「いらっしゃいませ」を言うようになった理由になっていないのだ。いつも、この番組はこういうケースが多すぎる。

 さらに、スタッフからも突っ込みが入った。

――お店に入ったお客さんに「こっちへおいでなさいませ」と言っても、もう(店へ)入ってきちゃってるんで、あんまり意味がないですよね?
齋藤 「言葉本来の意味ではそうとも言えますが、お店に入ってきた人に向けた『いらっしゃいませ』には重要な意味があるんです」

 番組は、洋服店で働く店員さんに「いらっしゃいませ」を言う意味を質問した。彼女たちにはこんな真意があるらしい。

「黙々と作業していると『無視されてる』と感じる方もいらっしゃると思うんで、『気付いていますよ』という意味を含めています」
「『いつでもサポートする準備はできております』という気持ちを込め、『いらっしゃいませ』をお伝えさせていただいております」

 つまり、「お客さんが買い物しやすくするため」という配慮が込められているらしい。でも、洋服店で威勢よく「いらっしゃいませ!」と言われると威嚇に感じるし、あんまり話しかけてほしくもない。話しかけられると「買わなきゃいけないのかな?」と、プレッシャーになってしまうのだ。できるだけ、ほっといてほしいんですけど……。

 さて、2020年1月から始まった『チコちゃんに叱られる!』の番組レビューは今回が最後。当初は評価と注目度の高かったこの番組も、最近は迷走している印象である。2020年の企画「キョエちゃんが行く! 日本全国 岡村嫁探しの旅」は「男性蔑視」と世の反感を買ったし、「唯我独尊ゲーム」(前の人が言った言葉と全く関係ないワードを発する“逆連想ゲーム”)については早期終了を望む声が止まなかった。

※2020年1月、初回の『チコちゃん」レビュー

 今回、エンディングで行われた「第二の川合俊一発掘オーディション」も、意図がよくわからない。チコちゃんの曲を奥田民生にプロデュースさせる試みや、エンディングテーマ「江戸川慕情」の歌唱動画を募る企画などは、迷走をそのまま象徴していると思う。現在の『チコちゃん』は『トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~』(フジテレビ系)の末期を思い出させるのだ。

 ここ最近、NHKでは中高年向きの番組が次々に終了した。低年齢層の視聴者が多い『チコちゃん』だが、正直ウカウカしていられないと思う。番組の趣旨と意義はいいはずなので、甦ってほしい。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2022/03/25 20:30
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