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「観た人にアクションを起こしてほしい」

戦う人々を描き続ける原一男が新作『水俣曼荼羅』に込めた思い

「国とけんかするもんじゃない」最後まで戦い続けた患者の葛藤

戦う人々を描き続ける原一男が新作『水俣曼荼羅』に込めた思いの画像4
©︎疾走プロダクション

ーただ、表現者としての自分を優先させると、個としての日常の生活を手放さないといけなくなるのでは。映画の主役の一人である生駒さんは、水俣病の研究のための検査を、ご自身の生活を維持するために断ります。

 生駒さんはまさにそうです。そこで個としての生活を優先させる生き方がまさに生活者なんです。そういう紆余曲折を経ながらも、その先は表現者として生きるような生活の質をどこかで持ってほしい。「そういう人がたくさん現れないと世の中は変わらないんじゃないか?」と思うんです。

ーたとえば84年に訴訟に加わり、その後も何度も裁判闘争を行う川上敏行さん。彼は途中の講演会で「国と戦うもんじゃない」という話をされます。そして、歳月が過ぎるとともにどんどん川上さんの家の中が荒れていく。奥さんが施設に入られたこともあるでしょうけれど、おそらく病気の症状もありますよね。そんな生活の中、2014年にもう一度裁判を起こします。一人の人が生活者と表現者を行ったり来たりするものなのかなと。

 行ったり来たりという見方もできますね。患者さんたちの葛藤を描けたことがこれまでの運動映画と違うところではないかとも思います。「患者さんは常に正しくて、批判なんてありえない」という映画の作り方はしちゃいけないと思いながら作りましたから。

 私たちの先輩にあたるドキュメンタリー監督の土本典昭さんは、70~80年代に、劇症の患者さんひとりひとりにインタビューを聞いていくという作り方をしました。病気の大変さを聞き取り、大変なことが起こったというのを、世間に伝えていく。でも、私は40~50年経ってから映画を作りましたから、その時点での問題点を明らかにしなくてはいけないという気持ちでいました。

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©︎疾走プロダクション

映画を観た人は「システム」を壊すアクションを

ー問題点と言えば、官僚や政治家が印象的です。特に熊本県の蒲島知事。国から指示がないということを盾に「システムの中でしか人は動けない」と言って、患者さんの認定を拒みます。あれはすごい詭弁じゃないですか。システムであるところの最高裁が「認定しないのは違法」と判断したのに、国に責任をたらいまわす。もう三権分立が成立してないというか。

「システムでしか動けない」というのはああいう中でしか仕事のやりようがないってことでしょ。そして、収奪される私たちのほうもシステムでがんじがらめになってるということです。だから、そのシステムをどう壊すかですよ。

ー患者さんに無礼な対応をして謝罪する熊本県の職員たちが出てきますね。そのひとりが「患者さんの話を直接聞いている時は共感しているんだけど、職場では機械的に書類を処理してしまう」という主旨の話をする。あれは普通の人の感覚をよくとらえてますよね。それゆえにシステムの強固さと怖さを感じました。

 システムのすべてが悪というわけではなく「信号を守る」のように皆が守ったほうが良いシステムもあるんですよ。でも、だいたいは税金や教育のように、庶民から収奪するだけのものとして機能してる。社会を自分の都合よく動かすために、システムを作っている人がいるわけです。だから我々は民主主義を権力と戦うための武器としてとらえて、力をつけないといけない。韓国がいい例です。パク・クネを大統領から引きずり下ろすときに100万人を超える民衆がデモに参加しました。日本はせいぜい10万人程度でしょう?

『水俣』は、水俣病を通して日本を覆っているシステムの不都合を描いています。福島の反原発の活動をしている人がこの作品を見ると「まったく同じです」と言います。私らが敵とか悪だと思っているものはみんなひとつだと。

 私は見た人にアクションを起こしてほしいんですよね。「見てよかった」で終わらせないで、その人が実際に自分の民主主義を武器にして立ち上がってこそのドキュメンタリーだという思いがある。そういうふうにあの映画を受け止めてくれないと、作った意味がないし、患者さんの裁判闘争も勝てない。「水俣病はまだ終わってないという空気に変えたい」とよく言うのですが、それはそういうことです。

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ー『泉南』の時に、監督は「裁判というのはあくまで国家を維持させるためのシステムの一部」とお話していて、あまり積極的でない印象でした。でも、今回は裁判中の佐藤さんご夫妻を応援するよう、トークの時に観客に呼びかけている。ただ、裁判にも限界がありますよね。泉南の訴訟では、柚岡さんという原告団のひとりが、厚生労働大臣に直訴しようとするけど、弁護士に止められる。「関係者の心証を害するから裁判中にトラブルは起こさないでくれ。あくまで裁判で戦うべきだ」という。それは「世間に気に入られるようないい子の原告でないと勝てない」ということではないかと。

 あの映画の中の弁護団は本当に誠実でいい人たちなんですよ。原告のために精一杯のことをやっている。ただ、思想的には日本共産党系なんですよね。政治というのは現体制・システムをある程度受け入れた上で改善しようとするものだから、妥協点がああいうところに出てくる。もちろん簡単に妥協してるわけじゃないですよ。ただ、妥協せざるを得ない現実がある。そういう限界は泉南でも水俣でもありますよね。私たちが『水俣』の中で否定したノーモア・ミナマタの人たちも共産党系なんですよ。

ー水俣不知火患者会の方々ですね。特措法(水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法)を受け入れて、210万と医療手帳を受け取る。210万で口を塞ぐような対応については、おそらく皆さん納得されていないのではと思いますが、とにかく「手帳が必要だった」とおっしゃる。

 私は日共系の人も真正面からぶち当たればいいじゃないかと思ってるけど、あの人たちは「取れるもの取ったほうがいい」って考え方だから、そこらへんが根本的に違います。私はそういう妥協しながら戦うというのがあんまり好きじゃないので、映画では否定せざるを得なかったんです。

ー監督が応援されている佐藤さんご夫妻は、そうした対応に尊厳を踏みにじられていると思い、訴訟を起こします。

 でも、その佐藤さんですら「水俣で水俣病の話をすると嫌われるからあまり話題にしない」という。あの言葉はものすごく切ないじゃないですか。でもそれは現実なので、きっちり入れておこうと思ったんですね。

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