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スーパー・ササダンゴ・マシン"流行"を考える〈ポップカルチャー生涯学習〉

スーパー・ササダンゴ・マシン、プロレスにまだ「テレビ」が必要な理由

 K-POP、2.5次元、タピオカ、韓国ドラマ…etc.「流行る」カルチャーには理由がある!DDTプロレスリングのレスラー兼タレント兼新潟県の金型工場「坂井精機」代表取締社長のスーパー・ササダンゴ・マシンが、世の中の流行を眺めながらプロレスとDDTの未来を考える連載。

第1回「『スッキリ』に出たら流行ったということで」の巻

プロレスにまだ「テレビ」が必要な理由──スーパー・ササダンゴ・マシン「流行」を考えるの画像1

プロレスに「推し甲斐」がある理由

編集T 以前にきつねさんと対談していただいた際に、ササダンゴさんが「プロレスが流行ると言われて10年たってる」と話していたのが気になっていたんです。いきなり少し突っ込んだ話ですが、2012年にブシロードが新日本プロレスを買収して以降、プロレスの市場規模は広がっています(2010年125億円→2019年140億円/矢野経済研究所調べ)。にもかかわらず、中の人たちが「まだ流行っていない」と感じているのはどういうことなんでしょうか?

スーパー・ササダンゴ・マシン(以下、ササ)たしかに、コロナ禍になる前まで、実は市場規模自体はちゃんとじんわりと右肩上がりを続けてきていました。でも相対的に見て、ほかに流行ってるものがあまりにも多すぎるんです。それこそ2.5次元舞台がこの10年近くで一気に伸びているわけで。プロレスも頑張ってはいるけど、団体数や選手数、興行数が増えて、ひと興行あたりの売り上げやいち選手あたりの取り分は減ってるんだと思います。

編集T だからレスラーの方々としては流行ってる実感が持てない、と。

ササ 我々の世代は長くやっている分もっと悪い時期も知っているから、今は今で希望を見いだしているところはあります。でもキャリア10年に満たない20代の選手からしたらたまったもんじゃないでしょうね。「もっと爆発してくれ」と思いながら身を削って試合してるわけでしょう。だからこそ「流行る」ってことをちゃんと考えないといけない。

編集T 自分の話で恐縮ですが、私はずっとK-POPとかジャニーズとかLDHが好きで、映画もメジャー大作が好きで、いってみれば流行りものが大好きなミーハー人間なんです。でもここ最近DDTをきっかけにプロレスがすごく好きになったら、まわりのオタク友達に話が通じないんですよ!

ササ でしょうねぇ。

編集T 3月に開催された『まっする6 -下北ONE PLUS ONE-』が本当に素晴らしくて、今年これを超えるものはないだろうってくらい感動したんです。あれから何を見ても「『まっする』のほうが面白かったな……」と思ってしまう。この前見たキンプリ のライブより『まっする』のほうがよかったです。

ササ 絶対そんなことないですよ!(笑)

編集T ありますよ! だからもっと流行ってほしいんです、こんなに面白いんだから。でも現状では周囲の友人たちに魅力を説いても「血は見たくない」とか「勝ち負け決まってるんでしょ?」とか言われてしまって……。きつねさんとの対談のときも「暴力だからなのかな……」と上野選手が嘆いていましたが。

ササ まぁそうなんですよね、「プロレスを二文字で表わせ」と言われたら「暴力」とか「殴打」「喧嘩」ですからね。でもそこは表現の仕方の問題なんだろうなというのは、僕も20年やっている中でだんだんわかっていったところです。良くも悪くも、プロレスラーがチャンピオンになるために必要なものと、格闘家がチャンピオンになるために必要なものが実は違うんだ、と。

逆に、プロレスを観るようになって日が浅い人に聞いてみたいんですが、“勝ち負けの妙”みたいなものはどういうタイミングでわかってくるんですか? 勝ったり負けたりがある中で、そこに対して自分の気持ちをどう整理して好きな選手を応援するのか。

編集T 最初は戸惑いがあったんですが、プロレスは勝ち負けももちろん大事ですけど、「いい試合をする」ということも大事なんだとわかってからすごく見やすくなりました。例えば総合格闘技だと、長い時間をかけて準備してきてもタイトルマッチでいきなり2分で負けてしまうこともあるじゃないですか。推している選手がそういう負け方をすると、ショックかもしれない。でもプロレスならそのときは負けても良い試合をしていれば、先につながる希望が見えてあんまり傷つかずに済む。単純に勝敗だけじゃない部分が大きいと感じて、見ていて楽しいんです。楽しみ方として正しいかはわかりませんが……。

ササ 合っているというか、たしかに、努力による勝ち星の取り合いなんですよね。それは確実にある。負けたって良い試合をすれば、必ずその選手にはのちにベルトに挑戦するチャンスが回ってくる。対戦相手をより輝かせることができたら自分にも反射した光が当たるわけです。勝ちの引き寄せ方として、それはひとつあると思います。

結局、みなさんがレスラーを推すことで、会社がその選手を推すことは確実にあるわけじゃないですか。だから「この人だ」って選手を見つけて応援していれば、その甲斐がある結果は絶対いずれ出てくる。

「3週間に1回テレビに出る」ブームを作る戦略

プロレスにまだ「テレビ」が必要な理由──スーパー・ササダンゴ・マシン「流行」を考えるの画像2
『まっする6 -下北ONE PLUS ONE-』のエンディング(「DDTプロレスリング」公式サイトより

編集T 本当、推し甲斐がありますよね。『まっする』は特に試合だけではなく演劇的な要素があるので、私のようなオタク女性には刺さるはずなんですよ! そのためにこの連載では『まっする』及びDDT、ひいてはプロレスがもっと流行るという目標に向かって必要なものをササダンゴさんと一緒に学んでいこう、という趣旨で立ち上げました。

ササ そうなると、まず「流行る」の指標をどこに設定するかという課題はありますね。そこは本来、みなさんの肌感覚じゃないですか。

編集T 目安として「『スッキリ』(日本テレビ系)で特集される」というのはどうですか?

ササ 今でもその指標は有効なんですか? 今あきらかにみなさん『ラヴィット!』(TBS系)を観てらっしゃるわけですが。

編集T 『ラヴィット!』を好意的に観ている人たちは多分、仮に今は接点がなくてもプロレスと親和性があると思うんです。面白いものを積極的にとりにいく気持ちがあるというか。

ササ なるほどね。『ラヴィット!』は深夜番組のノウハウでつくられてますもんね。あれは「世間」のパロディであって、ストレートに「世間」ではないのかもしれない。

編集T そう考えるとやっぱり「世間」は『スッキリ』なのではないかと。以前は新日本の真壁刀義さんがレギュラー出演していましたよね。

ササ そうなんですよ。だから「枠」がないわけではない。『スッキリ』でThe37KAMIINA(※)やDDT自体が特集されるのは大事な気がしてきました。今、本当に地上波の情報番組ではプロレス特集が全然ないんです。もっとあってもいい。どこの団体も動画配信サービスを自前で持って、自分たちである程度採算がとれるようにマネタイズの仕組みをつくる方向にいっている分、地上波戦略は意外と後回しになっているところがあると思います。

でもやっぱり、テレビで紹介されたお店は一時的には確実に繁盛するんです。新潟で情報番組のレギュラーをやってるんですが(新潟総合テレビ『八千代コースター』)、ここで紹介したお店にはその後3週間はお客さんが来るというデータが出てるんですよ。そしてその効果は3週間しかない。でも逆に言えば、3週間に1回何かしら話題を提供し続ければいいんです。それこそ2010年代にプロレスブームと言われていた頃、新日本プロレスやDDTは3週間に1回くらいテレビに出ていたわけで。

(※)サウナカミーナ:DDT所属の20代レスラーで構成された人気ユニット。日刊サイゾーでも連載を持つ。

編集T たしかに、レスラーの方がよくバラエティに出ていた時期がありました。

ササ 最近は「罰ゲームでプロレス技をかけられる」とかもやりづらい世の中になってきてしまっていますが、我々はプロレスラーです。相手をケガさせないような力加減やバラエティ的な立ち居振る舞いができる。バラエティの流れとしても、今は感染対策の面で身体接触が敬遠されていますが、この先またつくり方が変わっていくと思うんです。会議室バラエティではなく、しっかりセットを組んだ番組が増えてくるはず。歴史は必ずゆり戻したり、繰り返したりしますから。そこできっとプロレスラーは必要とされるんですよ。古くは『風雲!たけし城』におけるストロング小林(金剛)枠みたいな。そういうときに、企画会議で必ずDDTの選手の名前が挙がるように準備をしておかなければならないでしょうね。

テレビの制作陣には、プロレスを応援してくれている人が結構いるんです。だから必要なのはきっかけなんですよ。

編集T 今のコンテンツビジネスの世界では、薄く広く支持者をつくるより、熱いファンを持つことが大事だと言われます。でもその上で新しい人が入ってくるきっかけが要るし、そのための準備をしておかなければならない、と。

ササ「WRESTLE UNIVERSE」(※)に加入して画面の前に座ってじっと観るって、実はハードルが高い行為だと思うんです。あれは会場で生の試合をある程度体験したことがある人が、その感覚を持った上で追体験するものなんですよ。生で観たときの魅力や感動を脳内で補完しながら、スマホの画面で観ているんだと思う。だからやっぱり、プロレスの基本は結局「生(ライブ)」なんですよね。でもそれがすごいハンディキャップにもなってしまっている。チケット代も安くないし、決められた日時に決められた場所に行かないと観られないって、実は結構大変なことじゃないですか。

だから毎回会場には来られない人のために配信はあるんだと思うんだけど、それ以外にも、プロレスラー個人を応援したり愛するためにはもっといろんな方法や手段があっていい。コロナでしんどかったこの2年をギリギリ生き延びたところであればあるほど、この後のV字回復が絶対に大切になってくる。そのための道筋を見つけないといけないんだと思います。

※レッスルユニバース:DDTやNOAHなど、CyberFightグループ4団体の試合などを月額制で見ることができる配信サービス

編集T そのために、3週間に1回テレビに取り上げられるところを目指す、と。

ササ 意外と現実的なノルマかもしれません。テレビであっても、以前は超人気番組に出ないと多くの人には届かなかったものが、今はTVerなどの見逃し配信があるから話題にさえなれば後から観られるようになっています。SNSで話題になってTVerの視聴回数がたくさん回れば、ある程度数字を持っていることが証明できる。制作サイドはそういうところを指標にしているわけで、つまりプロレスファンが一致団結すればブームはつくれるんですよ!

編集T どういうことですか?

ササ DDTのファンであっても、新日本やNOAHが地上波で紹介されたときは一緒になって盛り上げて、それがTwitterのトレンド入りやTVerの再生回数増加につながれば「プロレスを取り上げると数字が伸びる」という結果に結びつきますよね。“熱中度”を可視化させるには、垣根を越えてみんなで手を組んでジャンル自体の盛り上がりを示すのは効果があるんじゃないか。プロレスに時間とコストをかけてくださっているみなさんがもっと幸せになるために、これはいいかもしれません。

編集T 逆に、なぜ今はそうなってないんでしょう?

ササ ギクッ。

編集T たとえば特定のお笑い芸人が好きな人でも、推しが出ていなくても面白いお笑い番組があれば見て盛り上がっていると思います。プロレスがそうなりづらいのは、団体ごとの交流や共演が少ないからなんでしょうか?

ササ それはすごくありますね。ライバルだと思っていて、ファンも気を使いすぎている部分があるんだと思います。普段見ている選手や団体以外を応援していてはいけないという気持ちがあるんじゃないかと。それこそ今のSNS社会だと、選手もまたファンのSNSを見ているわけですよ。それをわかっているから、裏切りのように思われてしまうことは避けたいという意識が働くのかもしれない。

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