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スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会#28

ベネディクト・カンバーバッチ「最高裁の人工妊娠中絶」判断に皮肉

ベネディクト・カンバーバッチ「最高裁の人工妊娠中絶」判断に皮肉の画像1
ベネディクト・カンバーバッチ(写真/GettyImagesより)

 アメリカの連邦最高裁判所が24日、女性の人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決」を覆す判決を下した。バイデン大統領はさっそく、「判決は最高裁による悲劇的な誤りだ」と批判している。中絶を許可するか制限するかは、各州の裁量にゆだねられることになるようだが、一部ではさっそく、中絶専門のクリニックが閉鎖されるなど対応が行われている。

 中絶の権利をめぐっては、アメリカを分断するほど激しい議論が行われてきたのだが、日本ではこれまで、「中絶」について深く考えている一般市民は、残念ながらそれほど多くはないだろう。

 一方で7月10日に参議院議員選挙の投開票を控えたタイミングで、”女性の権利”という観点から日本でもさまざまな見解がしめされ、徐々に関心もたかまりつるある。

 ここでは、アメリカでスタンダップコメディアンとして活動するSaku Yanagawa氏の連載記事を再掲載、まずはアメリカでどのような言説があるのかを、コメディの視点から読み解いてみたい。

※本記事は日刊サイゾー 2022年6月10日掲載の記事を一部編集したものです。

「みなさん、明日は母の日です! あなたが母になりたくても、そしてなりたくなくても」

 5月7日に放送されたコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で、ニュースキャスターに扮したコメディアンのコリン・ジョストが放ったこのジョークに、会場の観覧客からは笑い声とどよめきが起こった。

 今、女性の権利を巡ってアメリカを二分する議論が起こっている。

 5月2日、政治専門メディア『ポリティコ』に最高裁判所の人工妊娠中絶の権利をめぐる意見書草案のリークが掲載された。記事によれば、1973年に最高裁が女性の人工中絶の権利を認めた、いわゆる「ロー対ウェイド判決」が覆される可能性があり、そうなれば多くの州で女性が中絶にアクセスする権利を失うことになるという。

 そもそもアメリカ国内では伝統的に、人工妊娠中絶をめぐり大きく意見が分かれてきた。女性の選択の権利を優先する中絶権賛成派は「プロ・チョイス」、胎児の命を重んじる反対派は「プロ・ライフ」と呼ばれる。

 南部や中西部を中心とする保守的な州においては、中絶はキリスト教の教義に反するため、州法によって禁じようとする動きが取られてきた。近年では、胎児の心音が聞こえるようになってから(約6週目以降)の中絶を禁止する、いわゆる「ハートビート法」が成立し大きな議論と批判を呼んだ。たとえレイプなどによる望まれない妊娠の場合であっても中絶を禁じるばかりか、執刀した医師にはレイプ犯よりも重い禁錮99年が課される可能性があることから、各地で大きな抗議運動に発展したのだ。ちなみに先進国の中でもアメリカは、未婚の10代の母の数が最も多く、貧困や育児放棄も社会問題となっている。

 これまで、最高裁のこの「ロー対ウェイド判決」が最終的な憲法判断の根拠となり、先述の州法を訴訟で差し止めることができるため、プロ・チョイスにとって一種の「砦」として機能してきた。

 最高裁では大統領によって指名、任命された9人の判事の合議制によって判断が行われるが、判事は基本的に終身制。現在は保守が6人にリベラル3人という構成で保守優勢となっている。そのため中絶のみならず、同性婚などの権利も違憲化されるのではという懸念がリベラル派に広がっている。

 今回漏洩した草案は今年2月に最高裁内で作成されたもので、その資料の中でサミュエル・アリート判事は「ロー対ウェイド判決」に対して「極めて脆弱で、アメリカの伝統的価値観から逸脱しており、間違っている」と述べている。2006年にジョージ・W・ブッシュ元大統領によって任命されたアリート判事は現在72歳のイタリア系。これまでも中絶権に対して、反対の立場を明確にしてきた。現在過半数を超える5名の判事がアリート氏のこの意見に賛同しているという。

 この草案が最終的な最高裁の意見書として、今夏提出される可能性が十分にある。その場合、最高裁の決定とともに自動的に州内での中絶を全面的に禁ずる州法を成立させる「トリガー法」をすでに、少なくとも13州が整備しているため、多くの女性が中絶へのアクセス権を失うことになる。

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