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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.691

庇護者の不在を描いた『ベイビー・ブローカー』と現代の姥捨山物語『PLAN 75』

是枝監督が見出した新しい才能の開花『PLAN 75』

庇護者の不在を描いた『ベイビー・ブローカー』と現代の姥捨山物語『PLAN 75』の画像3
倍賞千恵子が主演したフィクションドラマ『PLAN 75』。短編から配役は一新された

 是枝監督の自伝的要素が強い『歩いても 歩いても』(08)や『海よりもまだ深く』(16)では、主人公の母親役を樹木希林が演じ、『万引き家族』などでも重要な役を担っていた。是枝監督にとって、樹木希林は映画世界の母親のような存在だった。樹木希林はそこにいるだけで映画になってしまう、唯一無二の女優だった。

 その樹木希林が2018年8月に亡くなった。是枝監督がフランスで『真実』(19)の撮影準備をしているさなかだった。是枝監督の初の海外作品『真実』では、フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴがどっしりとした存在感を放っている。カトリーヌ・ドヌーヴと樹木希林は女優としてまったくタイプは異なるが、撮影中の是枝監督は2人が重なって感じられる瞬間があったと語っている。

 本作には樹木希林もカトリーヌ・ドヌーヴもいない。韓国の国民的スターであるソン・ガンホが座長として現場をまとめ、ハングルのニュアンスが分からない是枝監督のために編集段階で判断できるよう、いくつもの演技パターンを見せたそうだ。だが、大いなる母性を持つ存在に見守られながら完成した、これまでの是枝作品とは異なるテイストのものになっている。絶対的な庇護者のいない世界で、若い母親・ソヨンは選択を迫られることになる。是枝監督自身が精神的な自立に向かっていることを感じさせるラストシーンのように思えた。

 赤ちゃんポストを題材にした『ベイビー・ブローカー』とは対照的な『PLAN 75』も注目したい。是枝監督が総合監修したオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(18)の一本だった短編映画『PLAN 75』を、早川千絵監督自身が長編映画化したもので、こちらは今年のカンヌ映画祭の「ある視点」部門に出品され、新人監督賞にあたる「カメラ・ドール」の次席「スペシャル・メンション」を受賞している。

 倍賞千恵子、磯村勇斗、河合優実らが出演した『PLAN 75』は、現代の「姥捨山」をめぐるフィクションドラマだ。超高齢化社会となった日本で「プラン75」という新しい法的システムが設けられる。75歳になった高齢者は、自主的に安楽死を迎えることができる。申請者は自由に使える支度金が手渡され、葬式や墓を心配しなくても済む。

 夫と死別した角谷ミチ(倍賞千恵子)はホテルの客室清掃員として元気に働いていたが、客から「お年寄りを働かせるなんてかわいそう」というクレームがホテルに届き、解雇されてしまう。新しい仕事を見つけることは難しく、長年暮らしていた住居も取り壊しが決まる。どこにも行き場のないミチは、「プラン75」の窓口で働くヒロム(磯村勇斗)に書類を申請する。(3/4 P4はこちら

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