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SATUSSY(韻踏合組合)が見てきた約20年のラップとポリコレ

文=斎井直史(さいい・なおふみ)

SATUSSY(韻踏合組合)が見てきた約20年のラップとポリコレの画像1
撮影=cherry chill will.

 ラップとポリティカル・コレクトネス――同居することはあれど、完全に溶け合うのは難しい。歯に衣着せぬ生々しいラップのリリックには、差別用語や暴力的な表現を躊躇なく使う曲が数多く存在する。しかし、その刺激こそラップの魅力のひとつでもある。ただ、誤解しないでほしいのは、ラップは無知や差別、そして暴力を推奨していない。むしろ、メディアが伝えない現実を音楽にして広め、被差別や暴力に対抗、もしくは消化する精神が宿っているからだ。

 その精神を宿せども、ラップがさまざまな人に聴かれるようになれば、その刺激的な“生々しさ”は規制対象にもなっていく。日本でラップバトルを広く浸透させた『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系。以下、FSD)でも、放送コードに反する(と思われる)リリックは文字通り”コンプラ”で隠される。こうしてラップは広がりを見せるにつれ、その鋭さを丸めざるを得ない場面にも遭遇する。

 では、規制を意識せぬ時代の国内のラップは、どのようなものだったのか。本稿では、2002年にリリースしたファースト・アルバム『Critical 11』と翌年に発表したセカンド・アルバム『ジャンガル』のリマスター盤の発売を記念し、韻踏合組合の組合長ことSATUSSY氏に当時を振り返ってもらった。すでに10枚のアルバムをリリースしたベテランMCの集まりでありながら、彼らはラップバトルイベント『ENTER』を主催し、関西のバトル・シーンの成長も見守ってきた。果たし合いのごとく殺伐としていたというMCバトルは、より競技化が進み、どのような変化が訪れたのか。さらに強まるであろう規制に対して、どうように考えているのか。そして、いちラッパーとして韻踏合組合のSATUSSYはどう変わったのか? 表舞台だけでなく、舞台裏でも長くシーンを支えてきた組合長に〈ヒップホップとポリコレ〉の未来を語ってもらった。

SATUSSY(韻踏合組合)が見てきた約20年のラップとポリコレの画像2
SATUSSY/ERONE

――まずは韻踏合組合のファースト・アルバム『Critical 11』とセカンド・アルバム『ジャンガル』のリマスター盤を発売することになった経緯から教えてください。

SATUSSY デビュー20周年を記念して(発売元である)Pヴァインから声をかけてもらったことがきっかけです。この取材の前日に『SPOTLIGHT』というイベントを開催したんですが、そこでお客さんに「韻踏合組合を知っているか」と聞いてみたら、10~20代前半が多かったこともあって、(リリース当時には)生まれてもない子とかもいたんですよ。オリジナルは廃盤だし、中古やレンタルでしか流通してない僕らの初期作品はまったく知られていなかった(笑)。なので、わがままも言わせてもらって、リマスター盤に加えて、アナログ(LP)もリリースすることにしました。

――ポリコレ目線で言えば『Critical 11』のブックレットは……今ならば完全にアウトかもしれませんね(笑)。

SATUSSY 今回はさすがにカットしました(笑)。「クリティカル・イレブン」というのは飛行機の離陸後3分間と、着陸するまでの8分間を合わせた魔の11分を指す言葉なんです。『Critical 11』リリース当時は韻踏のメンバーは11人で、不良とかではなく、いろんな意味で危なかっしいグループだったんで、「気をつけて飛び立つ」という意味合いを持たせたタイトルにしたんです。それをブックレットのイラストを描いてくれた仲の良いグラフィティライターに伝えたら……そういった絵が出来上がりました(笑)。制作のノウハウもなく、慣れない環境で締切もタイトだったので、そのまま出してしまったという経緯もあったんですけどね。

――元は別々に活動していたMCが集合し、結成したのが韻踏合組合ですから、初期は曲ごとに名義が違いましたよね。その頃の組合長としての役割はどんなものだったのでしょうか?

SATUSSY メンバーがケンカしないよう仲裁に入る。当時は揉め事が多すぎて。一晩かけて説得しても4小節すら作ってくれない、撮影に来ない、そんなことがしょっちゅうでした。メンバー内での競争心もすごかったし、イベントをやれば身内の客同士で絶対ケンカが起きたし、出禁になったクラブもたくさんあった。今はもういい大人なので、そうしたこともありませんけど、ここ7~8年くらいまでは、正直イベントもやりたくなかったくらいですよ(笑)。

――そんな当時と今ではリリックの書き方に変化は起きましたか?

SATUSSY 僕らとしては当時から一貫して「なんでもあり」。ただし、自分でケツを拭けるなら。ラッパーは言いたいことを言うのが面白さであり醍醐味でもある。言いたいことを言えなくなってしまったら終わりかなって気もしますしね。ただ、それを曲としてリリースするかは別。裏ではみんな言いたいことを言ってるわけで、間違ってたら「違うやん」と議論になり、学びがあればいいと思うんです。だけど、今はSNS時代ですからね。

――発言が一人歩きして収集つかなくなってしまう。

SATUSSY ツイッターとかでアホがバレる人もいるじゃないですか。ノリで差別用語や放送禁止用語ばかり言ってれば、SNSを介して音楽を聴かない人にも届いてしまうし、ファンであっても良識ある人はついてこなくなる。だけど、昔よりみんなの声がテーブルに載るという意味ではフェアだとは思う。昔はある種、(シーンの外の声は)届いていなかったわけですから。

――良し悪しは別にして、ヒップホップには今も昔もポリコレ的にアウトな表現はあり続けましたからね。

SATUSSY でも、それだけではない懐の深さがヒップホップの良いところなんですよ。ドープすぎてもあんまり売れないし、逆にポップなものばかり売れていいとも思わないんですけど、今のシーンはホンマいろいろなアーティストがいますからね。

コロナ禍でリセットされた自主規制

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グループを代表してインタビューに応じてくれたSATUSSY

――MCバトルのシーンはどう変わりましたか?

SATUSSY 昔は競技化したバトルじゃなくて、ガチの”ド突き合い”でしたからね。ステージから降りたらシバかれることもあったし、司会進行役はケンカの仲裁役でしたから。僕らの時代は単純にシーンも小さいからお客さんもほとんどがプレイヤーで、フリースタイルだけをやるラッパーなんてあり得なかったんですよ。でも、09年に『ENTER』を始めたあたりから少し変わってきたのかな。R-指定(Creepy Nuts)が出てきたとき、あいつは当時高校生とかで曲もなかったですから。いま思い返せば、あれから次のフェーズに入った感覚もあります。

――MCバトルに特化したラッパーたちにも多様化による変化は見られますか?

SATUSSY むしろバトルのほうが多様化への対応が早いような気がする。FSD以降、バトルはエンタメ化が急激に進んで、キャラ祭りみたいになってますから。

――そうした事例以外でも、SATUSSYさん自身、ひいては韻踏合組合としての大きな変化があるとしたら?

SATUSSY 一時期、俺らのできる範囲で自主規制めいた音楽をやったこともあるんですよ。ただし、それがコロナの自粛期間と重なったこともあり、今は規制がリセットされちゃいましたね。

――リセットというと?

SATUSSY 「(結婚して)子どももいるし、良いことをラップしよう」っていう時期があったんですけど、「もう、何言ってもいいやろ」ってところにもう一回戻ってきたんですよ。ある種、『Critical 11』を作っていた時期のように、本能に従って作っている。自分たちだからこそ言えることから、おっさんのしょうもない話まで、昔よりも幅が広がったから、自分たちはより楽しんで曲を作れるようになりましたね。

――それはコロナ禍で制作意欲として蓄積されていたものの解放なんでしょうか?

SATUSSY コロナが始まった頃を考えると、焦らないようにと言いつつも、やっぱりヘコんだ部分が大きかったんです。予定していたイベントが突然中止になるなんて1回や2回じゃないし、いざ強行してもお客さんは来ない。コロナによる終わりの見えない誰得状態があれだけ続いて……って今でも続いてるんですけど、我ながら「よく耐えたな」って思ってます。そうした時期もあって、9月に出す予定の韻踏の次のアルバムのタイトルは『So Far, So Good』って命名したんですよ。「100%元気ではないけど、いい感じだよ」という思いを込めて。

SATUSSY(韻踏合組合)が見てきた約20年のラップとポリコレの画像4
遊戯/HIDADDY

――コロナ禍での自粛の強制こそ、一番身近に感じるポリコレかもしれませんね。

SATUSSY 考え方は人それぞれだけど、建前は絶対全員がわかってるじゃないですか。だからこそ、全員の納得を得るのは難しい。去年の『NAMIMONOGATARI』での世間からの叩かれようを見てると、自粛しておきたい気持ちもわからんでもないですから。『SPOTLIGHT』だって、当初は20年の4月末にやる予定だったんですよ。

――大変な時期を乗り越えた、2年越しの『SPOTLIGHT』だったんですね。

SATUSSY とはいえ、キャパも半分にした開催でしたけどね。「声を出さない代わりに満員」という選択肢もあったけど、歓声なしのバトルイベントじゃ出場者も審査員もジャッジに困る。でも、現状は観客半分でもほぼ声出しできない状態ですからね。

 ――ちなみに、アルバム『So Far, So Good』の制作にあたって、何か象徴的な出来事はありましたか?

SATUSSY 昔と違って“パッケージング”は意識するようになったかもしれません。MVしかり、広告しかり、やらなあかんことが増えました。そう考えると、アーティスト周りの制作に関わる人間のリテラシーも大切かなって思うんですね。例えば、今は正しい批評が足りてないと思うんですよ。誰が見てもカッコいい奴らだけ売れる。あまりに楽曲が溢れすぎていて、リスナーもパッと見でしかわからない。でも、ヒップホップは不良性や猥雑さと同時に、インテリジェンスも兼ね備えてるからおもろい。物騒な内容なのに、巧みに韻を踏んでいて、しかも文学的ですらある。それは気づきにくい点でもあるから、気づかせる人が必要なんじゃないかなとも思う。もしくは、愛あるムチのような批評。

――2000年前半から2010年くらいまでは、そうした批評を雑誌編集者や音楽ライターがすれば、アーティスト本人が異を唱えてくる、という時代だったと聞いたことがあり、今の時代でも愛あるムチであっても、肝が据わってこその批評が求められますよね。

SATUSSY 気に入らない批評ごとに詰めていってたら、そりゃ音楽ライターなんていなくなりますよ。正直、その時代の一部のアホのせいで優秀なライターが消えていったのは、ヒップホップシーンにとって大きな損失だと思ってます。もっとシーンが大きくなれば、批評も成り立つ。MCバトルも昔なら仲間をたくさん連れてきたラッパーが歓声で勝つバトルもありましたからね。でも、規模が大きくなれば評価も公正になっていくんですよ。なので、僕としては今が過渡期だと思ってて。ライターが書いた批評が正しければ「そりゃそうだな」と、公平なジャッジが下るようになる。そのためにはもっと分母を増やさないといけないと感じてます。

――シーンが拡大するほど、ポリコレ的な自主規制の圧力は強まると思うんです。その流れとラップはどう向き合えばよいと思いますか?

SATUSSY これからはスター性に加え、スキルだけじゃなくビジュアルも必要とされる世の中になっていると思うんだけど、ポリコレ的な感覚が備わった人はファンもついてくるんじゃないですかね。アメリカでケンドリック・ラマーが評価されるのは本当にリアルやなって思う。一方で、大阪にはMoment Joonがいますけど、あいつはいまいち評価されてないじゃないですか。そこに悲しさを覚えるんですよ。北野武だって海外で映画賞を獲るようになってから世界的な評価を得た。Momentだって『blast』(07年に休刊したヒップホップ専門誌)があった時代だったら、もっと評価されていたんじゃないかなって思う。これからさらに多様化は進むだろうし、ラップを聴くリスナーも増えていく。ヒップホップが人気のあるジャンルである限り、人が増えてシーンが浄化されていく。そこで仮に問題が起きたとしても、それを建設的な議論で解決していくのもヒップホップの醍醐味だと思うし。今のところ、そういった議論はネット上の一部でしか起きてないように見えますからね。

――今後もヒップホップはフレッシュな文化であり続けるのでしょうか。それとも、またブームとして衰退してしまうのか。さまざまな現場を見てこられて、組合長としてはどのような意見でしょうか?

SATUSSY 正直、日本でどこまでラップがハネるかはわからない。今の若い世代に「音楽やるってならラップでしょ」という考えがあったとしたら、まずお金はかからないし、曲がイケてれば即座に発信することもできて有名になれるチャンスがあるからだと思うんですよ。一昔前は選択肢にDJやレゲエ、それこそロックなどに分散していたけど、ヒップホップを選択する割合は相当増えたと思う。だからこそ、優秀な大人(裏方)たちが必要だとも感じてるんです。アーティストとしてのレベルがどんなに高くても、無駄にしてしまう可能性があるんで。そういった意味でも、センスやカリスマ性だけでなく、ポリコレすら巧みに扱うネオい新世代がシーンを盛り上げていってほしいと思いますね。

[プロフィール]

SATUSSY(韻踏合組合)が見てきた約20年のラップとポリコレの画像5
撮影=cherry chill will.

インタビューに応じてくれた組合長ことSATUSSY/ERONE/DJ KAN(以上、CHIEF ROKKA)と、HIDADDY/遊戯/DJ KITADA KEN(以上HEAD BANGERZ)で編成される韻踏集団。02年のプレデビュー盤『Volume.0』を皮切りに、これまでコンスタントに作品を発表。大阪を代表するヒップホップグループとして、全国的に支持を集める。

〈Total Info〉
https://allmylinks.com/ifkrecords

斎井直史(さいい・なおふみ)

斎井直史(さいい・なおふみ)

音楽ライター。主な執筆の場はOTOTOYでの『パンチライン・オブ・ザ・マンス』の連載。その傍ら年に数回、他媒体での寄稿を行う。

Twitter:@nofm311

最終更新:2022/07/29 11:28

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