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【日刊サイゾー】関西バラエティ番組事件簿

永野VS.お見送り芸人しんいちにみる、バラエティ番組のドッキリのデッドライン

陰口を誘発する嫌味はアリだったのか、ナシだったのか

 ここで今一度考えたいのは、「陰口引き出し王決定戦」のドッキリは果たしてセーフだったのかどうかだ。

 内容自体はとてもおもしろかった。後輩芸人たちが、先輩をどういう風に見ているのか。先輩後輩の間柄だけではなく、おもしろい/おもしろくない、売れている/売れていないで腹の底に眠っているものはかなり違う。お笑いの世界に生きる者たちの生々しい本音がそこにはあった。

 しかし、結果的には後輩芸人たちが強烈な陰口を叩いていたとはいえ、それを誘発させたのは先輩である。これがポイントだ。嫌なテンションでダメ出しをして、作為的に陰口を出やすくしたからだ。もちろんその先輩の日頃の言動も加味されているだろう。それでも、永野が企画の趣旨に沿って煽ったことが、しんいちとの間にリアルな亀裂を生んだのだ。筆者はむしろ「食事の席でいきなりこんな風に言われたら、そりゃ面と向かってじゃなくても反発したくなる」と、しんいちに同情した。

野田クリスタル「傷が残るドッキリはやめた方が良い」

『水曜日のダウンタウン』内で同企画のプレゼンターをつとめたマヂカルラブリーの野田クリスタルは、6月30日放送のラジオ番組『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)のなかで、「ドッキリでやって良いラインと、やっちゃいけないラインをようやく引いた感じがする」と、「陰口引き出し王決定戦」がデッドラインを超えていたと語った。さらに村上が「スタッフさんも、まさかここまでになるとはって感じがあった」と振り返ると、野田は「傷が残るものはさすがにやめた方が良い」とドッキリとしてはアウトだったのではないかと分析した。

 まさにその通りだろう。ドッキリとは文字通り「人を驚かすもの」であり、「傷つけるもの」ではない。ただ、その境界線は「やってみないと分からない」ほど薄いようにもみえる。たとえばかつての『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)では、1組の一般人カップルにスポットをあて、番組側がハニートラップを仕掛けて彼氏/彼女が「お持ち帰り」「浮気」をするかどうかを試すというものがあった。その場ではバラエティ的におもしろく映るが、しかし恋人同士の関係性としては遺恨を残すに違いなく、かなりギリギリの線の企画だった。

 かと言って、テレビのドッキリがすべて「先輩芸能人が突然、現場でキレる」みたいなものばかりだとさすがに辟易する。どういうオチがつくのか、結末が見えているからだ。「陰口引き出し王決定戦」然り、人間性が生々しく炙り出るものはやはり視聴者的にも刺激的である。

 昨今のコンプライアンスのあり方から、たとえドッキリであっても「人の気持ちを傷つけてはならない」はいずれ討論されるような気がする。もしかすると「このドッキリは出演者の許可を得て撮影しています」なんてテロップが入る時代が来るかもしれない。もちろんそんなことになったら、テレビは本当に終わってしまうが……。

田辺ユウキ(関西在住ライター)

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、アイドル、テレビ、お笑いなど地上から地下まで幅広く考察。

Twitter:@tanabe_yuuki

田辺ユウキのプロフィール

たなべゆうき

最終更新:2023/02/28 06:20
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