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連載「クリティカル・クリティーク VOL.9」

ちゃんみなからLE SSERAFIMまで、日韓の交流が生む新しいボーカル表現

LE SSERAFIM 卓越したトレンド感で、日韓歌詞のコラボにも期待が高まる

 幅広い音楽ジャンルと特定言語の発音との絡み合いがフレッシュさを生み出している例では、LE SSERAFIMについても言及しなければならない。

 HYBE発の大型新人として各国のチャートを席巻しているこのグループは、近年散見されるようになった韓日メンバー混合による5人組である。韓国人3人と日本人2人から成る彼女たちこそ、今回テーマにしている日韓のコラボレーションを日常レベルで実践している存在にほかならないが、ここでもまたCHANMINA同様に、多彩な音楽ジャンルと言語との絡み合いで感動を喚起することに成功している。

 今年5月にLE SSERAFIMがデビューした際、活況のK-POP第4世代シーンにやや遅れてのタイミングでどのような勝負を仕掛けていくのか、多くの人がお手並み拝見といった態度で彼女たちを見ていただろう。

 1st EP『FEARLESS』はSF映画を思わせる没入感へと誘う冒頭のM1「The World Is My Oyster」から始まり、M2「FEARLESS」ではキレのあるベース音を規則的なリズムで配置することで楔を打ちこみつつミニマルに仕立て上げていく手腕が洗練を見せていた。

 続くM3「Blue Flame」でも飾りすぎず抑制された音数でリズムを打ち、M4「The Great Mermaid」はシンセで再びシネマティックな世界観を描き、最後のM5「Soul Grapes」はエレガントな空気を漂わせながら作品は幕を閉じる。

 MVにおけるモードファッションブランドのようなトーン&マナーやパッケージングが指摘されているが、確かに、楽曲においても無駄を削ぎ落とすと同時にエピックさを追求した絶妙な匙加減がハイセンスだ。

 ただ、aespaやNMIXXといった面々がある種の下世話さとともにマニエリスムとも形容できる極端さをかぶいている時代に、LE SSERAFIMの洗練志向はやや中途半端にも映ったことを告白しなければならない。

 それは、果たして時代性の読み違えか、ブルー・オーシャンの開拓か――NewJeansほど振り切れていなかった点も、評価を留保せざるを得ない要因だったかもしれない。

 けれども、続く2nd EP『ANTIFRAGILE』は、LE SSERAFIMの理解をより一層深める充実した内容となった。

 没入感とスペイシーさがさらに強化されたM1「The Hydra」によって幕をあける本作は、まずM2「ANTIFRAGILE」のレゲトン路線であからさまなRosaliaフォロワーとしてのスタンスが打ち出される。M3「Impurities」ではNewJeansを模したようなサウンドで、続くM4「No Celestial」はトレンドのポップパンクを拝借。ここまで来ると節操ないどころかむしろ清々しい気さえするが、彼女たちはモードファッションのようにトレンドを着せ替えていく存在ゆえに、むしろレゲトンからポップパンクまでを軽やかに着こなす態度こそがLE SSERAFIMらしさのコアとも言える。

 しかもその着こなし方が非常に高品質で、卓越したスキルとセンスに裏付けられている。「オリジナリティ」という中心をひたすら空洞にしながら、次々と外身を着せ替えていくパフォーマンスこそがLE SSERAFIMの神髄なのだ。

 一方で、この着せ替えに長けたグループがもっとも優れている点は、メンバーのカラフルな声のバリエーションを活かした歌唱ではないだろうか。

「ANTIFRAGILE」ではレゲトンにしては速めのBPMを、それぞれ高低差のあるボーカルがぐいぐい引っ張っていき、元バレリーナのカズハが歌う「忘れないで/私が置いてきたtoe shoes/この一言に尽きる」をはじめ、各メンバーのキャラクターを生かしたリリックがバックボーンとして力を与える。

「Anti-ti-ti-ti」といった「チ」の破擦音や各所での派手な脚韻も楽曲に色をつけ、一本調子になりがちなレゲトンのリズムに対し声の魔力でフックを無数に作り出している。

「Impurities」についても、よくよく聴いてみるとR&B風のたゆたうボーカルにしては過剰に言葉が詰め込まれていくテクニックが面白い。「No Celestial」は、ポップパンクのジャンルでこれほど表情に富んだ多彩なボーカルを聴いたことがないという点で、それこそCHANMINAの「Mirror」と同様の美点を持つ。

 つまり、最高級のフォロワーとしてめまぐるしい着せ替えを見せるLE SSERAFIMの最大の魅力は、高低差、ニュアンス、テクスチャ、テンポを駆使するボーカル表現に宿っている。

 日本人メンバーを有しているだけに今後リリックに日本語の割合が増えていく可能性もあるだろうし、その際には韓国語/英語/日本語の音を抜群のボーカルスキルで操っていく姿を観ることが叶うかもしれない。

 日韓の優れたアーティストによる表現は、人物同士のコラボレーションも交えながら、特定の言語ならではの発音の特徴と個性ある発声技法によって、新たな局面に突入している。

 恐らく、この動きは今後ますます加速するだろう。それぞれの言語の〈音〉としての魅力がさらに掘り起こされ、磨かれ、巧みな歌唱とビートとの反応で時代を切り拓いていくだろう。その時、優れた表現は半歩先の社会を映し、私たちに何かしらの示唆を与えるに違いない。

 

 

つやちゃん(文筆家/ライター)

文筆家/ライター。ヒップホップやラップミュージックを中心に、さまざまなカルチャーにまつわる論考を執筆。雑誌やウェブメディアへの寄稿をはじめ、アーティストのインタビューも多数。初の著書『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)が1月28日に発売されたばかり。

Twitter:@shadow0918

つやちゃん

最終更新:2022/11/14 21:00
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