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パン・ナリン監督インタビュー

ほぼ実話!『エンドロールのつづき』が描いた過去と現在、そしてインド映画のこれから

文=バフィー吉川(ばふぃー・よしかわ)

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映画に魅了される主人公のサマイ。『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

 第95回アカデミー賞において国際長編映画賞のインド代表に選ばれ、ショートリスト(予備候補)に残った映画『エンドロールのつづき』が、日本でも1月20日から公開されている。

 これまで、アカデミーにおけるインド映画を取り巻く状況は決して明るくはなかった。同映画賞にノミネートされたのは『ラガーン』(2001)以降、1本もない。本作が正式にノミネートされ、もし受賞となれば、アカデミー史上初のインド作品の快挙となる。

 2022年には、S・S・ラージャマウリ監督の『RRR』が日本を含む各国で大ヒットを飛ばすなど、世界的にインド映画への関心が高まっている。

 そんな機運のなかで公開される映画『エンドロールのつづき』は、インドの田舎に住む、決して裕福ではない少年が映画に魅了されていく様子と、映画監督を目指す過程を描いたストーリー。監督のパン・ナリン氏が経験した実話がベースになっている。

 インドの映画業界は他国と比べてかなり特殊で、監督業も俳優業も、コネクションーーいわゆる「華麗なる一族」的な“後ろ盾”ーーがなければ、なかなか踏み込めない領域にある。

 そんな状況下で、幼少期から身一つで映画界を志し、今や世界で活躍するパン・ナリン監督の物語は、多くのインド人クリエイターたちの希望につながる“羅針盤”としても機能するだろう。だからこそ、本作がアカデミー賞のインド代表に選出されたとも言えそうだ。

 生粋の映画マニアでもあるパン・ナリン監督に、本作の制作秘話やインドの映画業界の現在について、インタビューを行った。

ストーリーテラーがこの世界を動かしていく

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(左)映画技師のファザルさん、(右)サマイ。『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

ーー本作は「監督自身の物語、ほぼ実話」とのことですが、子ども時代の人との出会いが、のちの人生に影響するということが描かれていると思います。主人公のサマイのように、監督の幼少期にも、映画技師のファザルさんのような大人との出会いがあったのでしょうか?

パン・ナリン監督(以下、ナリン):ファザルさんのモデルになった、モハメドという映画技師で年上の友人がいました。作中で描いたように、実際にお弁当を一緒に食べていたこともあります。

 ただ、映画を無料で見ることができたのは、劇場にたくさんいるハトを追い払えば観させてもらえる環境だったので、作中のように無断で忍び込んでいたわけではありません(笑)。

 モハメドは3代にもわたる映写技師の家系で、読み書きこそできませんでしたが、いつも格言のようなことを私に教えてくれました。そのひとつが、作中にもある「(ストーリーの)語り手にこそ未来はある」という言葉でした。

 彼の哲学のひとつに、賢いストーリーテラーがこの世界を動かしていくというものがあったのです。確かに思ってみれば、富裕層や政治家もストーリーテリングによって、富を得たり、それを隠したり、票を獲得している側面もあると感じました。

ーー舞台を監督の少年時代ではなく、2010年代に置き換えたのは、映画がセルロイド・フィルムでの上映を終え、デジタルへ移行したことを描きたかったからでしょうか。また、英語教育の重要性や、保守的な考え方の転換など、インド社会全般の変化を描く側面もあったように感じます。

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『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

ナリン:プロットを練っていた当初は、私が実際に少年だった1980年代の物語にしようともしたのですが、モハメッドの視点も描いたほうが興味深いのではないかと思いました。2010年代、彼がデジタル化の波によって映写技師として職を失ったのも事実です。

 作中で描いた子どもたちの生活という視点で見ると、こういった地方の小さな村では、80年代でも今でもそれほど変化がありません。それこそお金持ちの子どもであればスマホを持っているかもしれませんが、駅前ののどかな風景や村での生活は、私の子ども時代とそれほど変わっていません。なので、私とモハメッドの物語を、セルロイドとデジタルの移行期に合わせて描いても、違和感はありませんでした。

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『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

 また10年前といえば、動画配信サービスが普及し始めた頃でもあり、ストーリーテリングの在り方が変化し始めていたので、そこにも触れたかったのです。

歌やダンスがない映画に衝撃を受けた

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『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

ーーインドでは、近年になってやっと、シネコンでマーベル映画やユニバーサル作品が上映されたり、配信サービスの普及で他国の映画が観られる環境になってきたりしていると思います。一方、ナリン監督の少年時代は海外作品を観ることは簡単ではなかったのではないでしょうか。監督が実際に海外の作品に触れたのはいつ頃からでしたか。

ナリン:私が映画に初めて出会ったのは8、9歳の頃でした。私の通っていた小さな町の映画館では、やはりポピュラーな商業的インド映画だけが上映されていましたので、そこでは海外映画には一切触れることはできませんでしたが。

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『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

 ファインアートとデザインの勉強のために都市部に引っ越したのが14~15歳の頃で、学校の寮にいた友人が英語の映画を観に行っていて、私も観るようになりました。初めて観た海外映画は西部劇でしたが、今まで海外映画を観たことがなかった私にとって、歌もダンスもないのに、映画として機能していることに衝撃を受けました。

 より多くの作品に触れるようになったのは20歳頃からで、ヌーヴェルバーグやイタリアンニューウェーブ、日本映画などにも触れていくようになりました。経歴としては、商業的なインド映画から、ハリウッド、そしてワールドシネマへといった感じです。

ーーインドでも、ジャッキー・チェンやブルース・リーなどの香港映画や、70~80年代にかけて『グリース』や『サタデー・ナイト・フィーバー』のようなジョン・トラボルタの作品が上映されていたようですが、海外映画のムーブメントのようなものは何度かあったのでしょうか。

ナリン:私はそれらの作品も観ましたが、一般的にインド国内でハリウッド映画が大きなムーブメントになったことは印象にありません。インド市場では、海外映画の上映数はいまだに全体の数%ほどだと思いますし、私の時代はさらに低かったですから。

 ただ、ブルース・リーの作品や『少林寺』シリーズは、インドの言語で吹き替えられて上映されていましたから、香港映画ムーブメントがあったことは覚えています。

ーー最近になって、インドでも、国内で制作された作品以外の映画が需要を広げている印象です。インドのボックスオフィスには『ソー:ラブ&サンダー』や『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』などのハリウッド映画が初登場1位にランキング入りしていることが多くなりました。

ナリン:コロナ過の影響による劇場需要の変化の影響や、ハリウッドのメジャースタジオがここ数年、積極的にインドで配給していた結果として、増加傾向にはあるとは思います。

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『エンドロールのつづき』 ©2022. CHHELLO SHOW LLP

 ただ、世界的市場で見ると、ハリウッド映画がインドでそこまで成功しているとは思えません。ハリウッド映画の場合、インド映画の半分程度の興行収入で“大ヒット”と言われますから。

 最近の例では『トップガン・マーヴェリック』が500~600万ドルでそこそこのヒットとされていました。でも、インド映画のヒットラインは2000~2500万ドルです。世界的にヒットしていた『タイタニック』や『スター・ウォーズ』シリーズ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズも当時、インドの市場ではそれほど受けてはいませんでした。

 ただ、日本や韓国も、インドと同じように自国の映画が強い国ではないでしょうか? インドでも、国内制作の映画とハリウッド映画とではストーリーの構造自体が違いますので、まだまだ自国の映画を好む人は多いと思います。インドでヒットしている映画が私の好みの作品かというと、必ずしもそうではないのですが。

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