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リチウムの「眠れる獅子」は中国と提携、中国の「裏庭化」進む南米の事情

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世界最大のリチウム埋蔵量を有すると推定されているボリビアのウユニ塩湖(「Wikipedia」より)

 中国の影響力が急速に広がるラテンアメリカで、またひとつ、中国企業が大きな契約を結んだ。人類の命運を握るグリーンエネルギー分野での契約で、西側先進国は神経を尖らせている。

 この契約は南米ボリビアでのリチウム開発に関するものだ。社会主義国ボリビアで唯一、リチウムの採掘が認められているボリビア国営リチウム公社(YLB)は、海外企業の提携先の選考を続けていたが、先月、EV電池生産で世界最大手である中国・寧徳時代新能源科技(CATL)などの企業グループをパートナーに選定した。ボリビア国内にリチウム採掘・加工プラントを2カ所建設し、各施設で電池生産に適した炭酸リチウムを年間2万5000トン製造する計画だ。

 リチウムは電気自動車や携帯電話などの心臓部となるリチウムイオン電池の材料となる希少金属だ。リチウムの争奪戦は、経済の主導権争いそのものでもあり、産業界のみならず国家レベルでも「絶対に負けられない戦い」となっている。

 そのリチウムの多くは南米大陸にある。チリ北東部、アルゼンチン北西部、ボリビア南西部にまたがる地域は塩湖が点在し「リチウム・トライアングル」と言われる。米国地質研究所(USGS)によると、世界のリチウム地下資源量の約67%が「リチウム・トライアングル」に眠っているという。

 「リチウム・トライアングル」のうち、チリとアルゼンチンはリチウム生産がほぼ軌道に乗り、チリは生産量で世界2位、アルゼンチンは同4位の地位にある。資源量からすると両国の生産量は、今後も大幅に増加することが予想されている。

 その一方で、ボリビアだけは商業生産ができていない。国別の資源量では世界トップ、全世界の約4分の1のリチウムが眠っているのに、である。世界最大の塩湖として知られるウユニ塩湖などは、チリやアルゼンチンの塩湖よりも標高が高い位置にあることなどから、採掘に高度な技術が必要だ。にもかかわらず、ボリビアは政情不安が続くため外国企業が定着できず、リチウム開発の技術がない。このためボリビアは現在も「リチウム界の眠れる獅子」のままだ。

 ボリビア政府としてはリチウム価格が高騰する中で、その恩恵を受けられない状態を早急に打破しなければならない。提携先に手を挙げた米国、アルゼンチン、ロシア、中国の企業の選考を1年以上続けてきたが、反米左派のカリスマ、モラレス元大統領の「子飼い」であるアルセ政権が提携先を中国の企業グループに決めたのは、自然の流れであった。

 今回の契約によってボリビアのリチウム開発は本格化するとみられ、「世界のリチウム産業の大きな転換点になる」と分析する専門家もいる。

 リチウムイオン電池の生産で中国は既にシェア80%の地位を築いている。チリやアルゼンチンでのリチウム採掘にも巨額の出資をしており、さらにボリビアまでが中国に押さえられてしまうという事態になった。米国や欧州、日本など西側の官民関係者が漏らす溜息は深い。

 しかし、契約したCATL側にも不安がある。契約ではボリビアでの採掘は、効率的にリチウムの抽出ができる「直接リチウム抽出」(DLE)という方式で行われるが、中国のDLEの技術水準は未知数だ。実際に事業がスタートしても採掘は順調に進まないだろうと見る専門家は多い。YLB側はそれを見越しているのか、提携先を決めたばかりなのに、他の外国企業との協力を排除しない姿勢を示している。

 ラテンアメリカへの中国の進出は2000年以降、急速に広がった。ラテンアメリカの輸出先としては2%に満たなかったが、貿易量は爆発的に増え、2021年には金額ベースで4500億ドル規模になった。南米だけで言えば、現在の最大の貿易相手国は中国だ。中米などを含めたラテンアメリカ全体では、米国に次ぐ2番目の貿易相手国になった。2035年までには7000憶ドル規模まで貿易量が増えるとの予想もあり、ラテンアメリカは中国の「裏庭」になってしまった印象さえある。

 ただ、ここ数年、中国経済の減速が目立つようになってからはラテンアメリカ投資に陰りが出てきた。西側の反転攻勢も強まっている。ドイツのショルツ首相は先月末、南米を訪問し、チリ、アルゼンチンの首脳からリチウム開発での関係強化を取り付けた。リチウム争奪戦は中国が入手した「手駒」を、いかにひっくり返すか、という戦いになっている。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/02/07 19:00
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