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今週の『金曜ロードショー』を楽しむための基礎知識㊿

『プリティ・ウーマン』ディズニーが娼婦とドラッグの映画に手を出した理由

ジュリア・ロバーツの色仕掛けにリチャード・ギアも思わず「イエスだ」

 その間、キャスティングも難航する。ヴィヴィアン役のジュリア・ロバーツはマーシャルらの推薦だったが、当時全くの無名だったため、ディズニーは「もっと有名な女優を」とほかの候補を探していた。ところがロバーツがほかの作品に出演しそうになっため、慌てて契約。もうひとり、重要な相手役はリチャード・ギアのほかに何人も候補がいた。しかし肝心のギアをはじめ、候補に挙がった役者からはみんな断られた。なにしろエドワードはまったく感情移入できない、自己中心的なキャラクターだったから、誰からもいい返事がもらえない。

 しかしどうしてもギアが欲しいマーシャルはロバーツを同席させて彼の事務所へ行き、部屋に二人きりにして、外から電話をかけた。「出演してくれる?」迷っていたギアだが、ロバーツがその場で付箋に走り書きのメモを渡した。

(イエスと言って!)

 その時のロバーツの仕草があまりに可愛らしくて(!)、ギアは思わず「イエスだ」と言ってしまう。制作中にすら映画的なエピソードが盛りだくさんな作品だ。

 なんとか撮影はスタートするが脚本の問題は解決していなかった。

 そのためマーシャルは撮りながら脚本に手を加え、その上それに従わなかった。現場では役者に「怒りのバージョン」「もっと明るいバージョン」「何でもありのバージョン」3つの演技プランを要求した。即興的な演出はテレビコメディの現場でマーシャルが培った手法だが、おかげで役者らは自分が何をやっているのか、どんな風に完成するのはまったくわからないまま演技を続け、3つのバージョンを組み合わせたフィルムをマーシャルと編集スタッフは、試写で観客の反応を見ながら何度も再編集を繰り返し、ようやく完成した……。が、こんな状況だったため、スタッフ、出演者をはじめ、これはまともなフィルムじゃない、お蔵入りか、公開しても失敗するんじゃないかと思われていた。

 ところが公開された映画は大ヒット。4週連続トップ、10週連続トップ10入り。アメリカではほぼ1年に渡ってロングランされ、ロマンティック・コメディの金字塔として映画史に残る作品になった。

 特にヒロインを演じたジュリア・ロバーツはこの一本で一躍、スターダムにのし上がり、ロマンティック・コメディの女王として名を馳せた。

 下品な恰好の娼婦だったヴィヴィアンがドレスで美しく着飾られ、芋虫から蝶へと羽ばたいていく様は、ロバーツの魅力なしにはありえない。『椿姫』を見に行くときのシーンはディズニーの「男はみんな黒が好きだ」という案と、衣装担当の赤の案がぶつかり、2パターン撮影されたが、ロバーツが赤のドレスを着て現れた瞬間、その場にいた全員が息を飲んだという。

 物語はまさにディズニー王道のシンデレラ・ストーリーとしてハッピーエンドを迎える。でも、ロートンのオリジナルのアイデアはそうじゃなかった。ハッピーじゃない当初のラストシーンは、最後にエドワードとヴィヴィアンは大喧嘩をし、契約金の3000ドルを叩きつけてエドワードは車で走り去る。その金でヴィヴィアンは娼婦仲間のキットと二人でディズニーランドに遊びにいく。ランドに向かうバスの中でキットは「耳のついた風船買おう!」とはしゃいでいる。ヴィヴィアンは去っていった男を惜しむように黙っている……。

 ロートンは娼婦のリアルな現実を知っているが故に、こんなほろ苦い結末にしたのかもしれないが、観客が見たいのはそっちじゃないよ! こんなラストのまま公開してたら一週間も経たないうちに忘れちゃうよ、この映画を。

「みんなディズニーランドに行きたくなるよ。いい宣伝になるのに」

とロートンは自嘲気味に言うけど、このラストを採用しなかったディズニーの方が正しいよ。『プリティ・ウーマン』は公開当時(そして今も)、「馬鹿げた話」「おとぎ話もいいところだ」なんて批判もあったけど、観客が求めているのは、そのおとぎ話、シンデレラ・ストーリーなんだから。

 

 

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/03/03 19:00
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