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米国で銃乱射事件が止まらない…凶器のAR-15ライフルが拡大した意外な背景

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写真/Getty Imagesより

 米国で銃乱射事件が相次いでいる。5月6日にテキサス州アレンのショッピングモールで起きた事件では8人が死亡し、米国内で今年199件目の銃乱射事件として報じられた。一般的に、一度に4人以上が銃撃されて死亡またはけがをした事件を、米国では銃乱射事件としてカウントする。アレンでの事件から3日後には、さらに増えて203件となった。4年連続の年間600件超えになりそうなペースで推移している。

 米国では憲法修正第2条(セカンド・アメンドメント)で、銃の所持が国民に保障されている。建国から15年後の1791年に追加された条項で、「自らの身は自らで守る」という建国当時からの米国の考え方を反映した内容だ。この条項のもとで、銃は市民生活の隅々にまで入り込んだ。銃の規制に反対する保守派は、この条項を銃保有のための「錦の御旗」としている。

 米国では、許可された銃器販売業者は銃火器販売の記録を保存し、個々の販売についてアルコール・たばこ・銃器取締局(ATF)から問い合わせがあった場合、応じなければならない。ただ、連邦法では販売内容や数量などの当局への報告を、販売業者に義務付けていない。このため、米国社会にどのぐらいの銃があるかという正確な数字は把握できないが、スイスの研究機関が実施している「Small Arms Survey」によると、米国市民が保有する銃は2018年時点で約3億9300万丁以上に上っていた。

 住民100人当たりの銃の数は120.5丁で、人口を超える数の銃が社会に出回っているのは世界でも米国だけだといわれる。2011年の100人当たりの数は88丁だったことから、米国では急速に銃の数が増えていることがわかる。

 さらに医学系の学術誌「Annals of Internal Medicine」によると、2019年1月から2021年4月までの間に、新たに約750万人が銃を保有するようになったという。銃を購入する際のバックグラウンドチェックの件数などから弾き出した。

 新型コロナの感染拡大で、コミュニケーションが希薄になったことで社会不安が増大したことや、経済的な混乱で治安が悪化したことなどから、自衛意識が高まり、新たな銃保有者が増えたとみられる。

 これに伴い銃乱射事件も増加した。米国の非営利団体「Gun Violence Archive」によると、米国内の銃乱射事件は2014年が273件だったが、2015年が336件、2016年が383件、2017年が348件、2018年が336件と、その後、4年連続で300件台が続いた。2019年は417件とさらに増加し、コロナ禍に入って一段と増えた。2020年は610件、2021年は690件、2022年は647件。今年、600件を上回れば4年連続の600件超となる。

 銃乱射事件の増加の中で注目されているのは、事件で使用されることが多い半自動小銃のAR-15ライフルの存在だ。2012年以降に発生した死者10人以上の銃乱射事件17件のうち10件で凶器として使用されている。現代の銃乱射事件の「黒い主役」である。

 AR-15は1950年代に銃メーカーのアーマライトが非軍用ライフルとして開発した。「AR」とはアーマライトの略称だ。

 1959年にはコルトが、AR-15の改良版である全自動ライフルM-16を開発した。M-16は米軍に採用され、ベトナム戦争での主力小火器として名をはせた。ベトナム戦争後、コルトはこのタイプの半自動ライフルを製造し、警察などが使用した。

 1977年、AR-15についてのコルトの製造・販売特許の期限が切れると、スミス・アンド・ウェッソンなど他の銃メーカーもAR-15タイプのライフルの製造を始めた。しかし、軍用ライフルとして性能を高めてきたAR-15タイプは、殺傷能力が高く、「自衛用として、そこまではいらない」と消費者から敬遠されがちだった。

 ところが2001年9月11日にニューヨークなどを標的とした世界同時多発テロが起きると、市民の意識が一変した。家庭を守るためには軍人と同じような装備が必要だと考える市民が増えたことから、AR-15の売り上げが伸び始めた。

 2009年には銃規制派のオバマ大統領が誕生した。米国の場合、銃規制が強まるほど銃の売り上げは増加する。新たな銃規制が導入される前に銃を多く買い求める動きが強まるからだ。銃支持派がオバマ大統領を「トップセールスマン」として「表彰」したこともある。

 現代の米国を苦しめるAR-15を市民社会に浸透させてしまったのは、皮肉にも同時多発テロとオバマ大統領だった。

 米国社会にどれだけのAR-15があるのか、正確な数字はわからないが、数千万丁単位だといわれる。ワシントンポストとイプソスの世論調査では、米国の成人の31%を占める銃保有者のうち約20%はAR-15を持っているという。この数字は、米国人の20人に1人がAR-15を保有していることを意味している。

言問通(フリージャーナリスト)

フリージャーナリスト。大手新聞社を経て独立。長年の米国駐在経験を活かして、米国や中南米を中心に国内外の政治、経済、社会ネタを幅広く執筆

ことといとおる

最終更新:2023/05/22 11:00
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