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『RRR』でインド映画が気になったらNetflixへ! 研究家オススメのインドエンタメ3選

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Getty Images

 インド映画ブーム、ムーブメントと到来言われる昨今。だが、昨年の『RRR』大ヒットの影響を受けて一般劇場公開に踏み切ったインド映画は、現在公開中の『ブラフマーストラ』と、7月に公開されるラーム・チャラン主演映画『ランガスタラム』、そして情報が解禁となったばかりの『K.G.F:CHPTER』1&2の、わずか4本しかない(昨年11月公開の『マスター 先生が来る!』や、今年2月の『バンバン!』は、もとから公開自体は決まっていたものの、結果的に『RRR』のあとになった)。

 その証拠に、Netflixで配信されているインド映画・ドラマは日本で多く視聴されているかといえばそんなことはなく、本質的な意味でのインド映画ブームとはほど遠い状況だ。Netflixが制作した映画やドラマは基本的にすべて配信されるものの、3年ほど前から、インドの既存作品の新規配信がほとんど止まっていることにも気づかされる。

 日本の映画配信サービス「JAIHO」が、『ヤマドンガ』や『アラヴィンダとヴィーラ』など日本未公開だったインド作品に字幕を入れて配信しているのだから、できないこともないはずなのに、Netflixがしていないというのは、需要がないと見なされてしまっているのだろう。
 
 だからこそ、みなさんに既存のインド作品をもっと観ていただきたい! ーーというわけで、Netflixで配信され、現在視聴可能なインド映画やドラマ3作品を厳選して紹介していきます。

『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』
日本マンガっぽい!? 人間×ヴァンパイアの“異種間”ラブコメドラマ

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『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』(Netflixより)

 インドには450以上の言語が存在し、近年では各語でエンタメ作品が作られてもいるが、世界的にはまだまだインド映画=ヒンディー語のイメージが強い。

『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』も、舞台は東インドのコルカタなので言語的にはベンガル語のはずだが、キャラクターたちはヒンディー語を話している。それが吹き替えではなく、オリジナル音声となっているし、そもそも出演している俳優たちはヒンディー語映画やドラマの俳優ばかりだ。

『RRR』も(実は)テルグ語映画なのだが、世界的にはヒンディー語版のほうが視聴されやすく、Netflixもテルグ語版よりヒンディー語版をPRしている。『RRR』の、かの有名な劇中歌『ナートゥ・ナートゥ』よりも、ヒンディー語版『ナチョ・ナチョ』のほうがYouTubeや音楽配信メディアでの再生回数が多いのも、そういうことだ。

『RRR』がボリウッド映画(インドのムンバイで製作される映画の総称)と間違えられがちなのは、単純にインド映画=ボリウッドというステレオタイプがあるからかもしれないが、それに加えて、ヒンディー語版作品のほうが多く流通している影響もあるのだろう。

 かと言って、Netflixでもテルグ語やタミル語のドラマが配信されていないわけではない。ただし字幕が限られており、他国からのアクセスでは見つけづらかったり、そもそも配信自体がされていなかったりするだけに、Netflixのスタンスとしては、やはり“ヒンディー語の作品で勝負したい”と思っているように感じられる。

 以前、筆者がインタビューした『エンドロールのつづき』のパン・ナリン監督、プロデューサーのディール氏も、出資者たちから“ヒンディー語で制作するのであれば資金をもっと出すし、公開規模も大きくする”と言われたと語っていた。

 そういった言語のもどかしさはあるものの、自国ユーザーをメインとしている「ZEE5」(インドのサブスクリプション動画サービス)の配信作品と比べても、NetflixやAmazonプライムビデオで配信されているインドのオリジナルドラマの多くが、インド国内ではなく“世界”に向けたものとなっていることがわかる。

 そのため、扱うテーマには、男尊女卑やジェンダー問題、カースト差別、世代交代による結婚・恋愛観の変化、人身売買をはじめとする社会問題……などが多く、インド社会においての他国からの“負のイメージ”を払拭しようとするような、少しプロパガンダ的な作品が多いようにも感じられる。とはいえ、台湾や韓国の作品なども同じ状況であるから、それがノイズになるわけでもない。

 こうした前提を踏まえて『トゥース・フェアリー ~恋のヒト噛み~』を観てみよう。本作は、人間とヴァンパイアの恋愛を描いた、日本のマンガでもよくある設定の作品だ。

 社会問題を扱っていないかというと、そういうわけではない。人間とヴァンパイアという設定自体が、異宗教信者や外国人との恋愛のメタファーになっているのだ。人間とヴァンパイアでも恋愛関係は成り立つのだから、人間同士なら悩む必要なんてない、という着地点になっている印象を受ける。

 とはいえそんなメッセージ性は強過ぎることはなく、視聴者層も比較的若い世代がターゲットになっているので、インドのドラマ作品に対して親しみのない人にとっても、インドエンタメ入門編としてちょうどいいかもしれない。

 本作の男女キャラクターは、従来のジェンダー規範を(もちろんいい意味で)逸脱していて、人間男性の主人公ロイのほうが“ナヨナヨ”している。インドのドラマの主人公としては、少し前までは考えられなかったキャラクター造形だといえるだろう。新たな男性像として、こういったキャラクターが登場してくることにも時代の変化を感じる。

 また、ロイを演じているシャンタヌ・マヘーシュワリは、もともとモキュメンタリードラマ『Dil Dosti Dance』で注目されたことがきっかけとなり、テレビを中心にリアリティショーなどのナビゲーターとして活躍していたのだが、アカデミー賞のショートリスト(ノミネート候補作)にも入っていたアーリヤー・バット主演作『ガングバイ・カティヤワディ』(2022)で映画俳優デビューを果たした新人であることにも注目してもらいたい。

 そんなロイのキャラクター造形、全体的なストーリー、なんの説明もなく突然発動する特殊能力など、ツッコミどころの多い作品ではあるが……それも踏まえて、やはり日本のマンガ的な感じがする作品だ。

 近年、インドでは日本のアニメ映画の公開数が増えており、今年に入ってからも『ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』や『BLUE GIANT』、『すずめの戸締まり』といった日本の作品が公開され人気を得ている。また、インドのアニメ制作会社スタジオ・ドゥルガーでは「カルマチャクラ」というTYPE-MOON(『Fate』シリーズなどを手掛けるプロダクションのゲームブランド)作品を意識したようなアニメを制作しており、劇場公開を目指した長編アニメ映画を制作中だ。

 日本のアニメはもともと、インド国内でもケーブルテレビを通して観られており、『忍者ハットリくん』のインドオリジナル続編が制作されたり、現在も『おぼっちゃまくん』の新作が制作されているなど、人気は高い。ただ、それほど一般的ではなかったというか、どちらかというと“アニメは子どもが観るもの”という、かつてのアメリカに近いスタンスだった。

 それが配信サービスの普及によって、新作がダイレクトに入ってくるようになったことから、日本のアニメやマンガに世代を超えて注目が集まり出しているのだ。インドのドラマや映画の作風にもその影響が現れ始めているとしても不自然な話ではない。

 インドの映画監督ゾーヤー・アクタルがアメコミの『アーチーズ』を実写ミュージカル化しているように、日本のアニメやマンガがインドで実写化される日も、そう遠くはないのかもしれない。

『ジャックフルーツが行方不明』
目に見えない、さまざまな支配構造をコメディとして描き切る

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『ジャックフルーツが行方不明』(Netflixより)

 Netflixが制作するインドのオリジナル映画は、社会問題を扱うことが多い。そういった姿勢を海外市場に発信したいという表れでもあるだろう。

 アーリヤー・バット、タープシー・パンヌ、そして今作の主演であるサニヤー・マルホートラは、Netflix映画で“強く生きる女性”を体現する俳優としてたびたび起用されている。サニヤーは『おかしな子』(2021)、『わたしたちの愛の距離』(同)といった作品でも主演を務めたが、どちらも現代的価値観を持ち、自立した女性を演じている。

 一方で、『ジャックフルーツが行方不明』のジャンルはコメディ。サニヤーの持ち味が活かされないかもしれない、という不安もよぎった。というのも、インド映画にも苦手というか、不得手というか……(むしろ)時代のほうが追いついていないジャンルがいくつかあり、それがコメディとホラーだ。

 ホラーに関しては、なぜかコメディ要素がくっつく作品が多い。『霊幻道士』や『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』シリーズといったコメディ要素の強い香港ホラー映画の影響が強いようにも感じられるのだが、ホラーに不可欠ともいえる緊張感がないものが多く、本格ホラーを目指して制作されたはずのインドホラー『Amavas』(2019)も、冒頭からいきなりつまずいている。

 最近になってインドでもブラムハウス・プロダクションズやジェームズ・ワン監督のホラー作品が人気を博しており、いい具合に変化してきている。『エンドロールのつづき』と同じくグジャラート語で制作されたホラー映画『Vash』がインドの観客を震撼させており、すぐさまアジャイ・デーヴガン主演でヒンディー・リメイクが作られるなど、インドホラーも急激なスピードで進化しようとしている……けれども、最大の難敵はやはり、なぜかコメディ要素が入り込んでしまうことだ。

 もはや吉本新喜劇や昭和喜劇映画のような効果音が聞こえてきそうというか、実際に多用したホラー作品さえ多くある。ハリウッドリスペクトが強いはずのローヒト・シェッティ監督の作品でさえも、コメディ部分では昭和の香りを漂わせており、最新作『サーカス』(22)はその象徴ともいえる作品だ。

 さて、『ジャックフルーツが行方不明』でも冒頭でドタバタ珍道中が描かれていることから、そういった類のコメディ作品なのかと思ったが、よくよく観るとそれだけではない。ネタバレになるので詳しくは伏せるが、犯人を追い詰めたシーンで、壁にさりげなく「教育でカーストを撲滅しよう」という文字が書かれていたのだ。このメッセージが本作のテーマになっているのだろう。

 ここでの「カースト」とは、ストレートにそのままの意味も含まれているが、男女や日常の上下関係も含まれる。本作のおおまかなストーリーは、政治家の邸宅にある木になっていた2つの大きなジャックフルーツが盗まれたことから巻き起こるーー政治家と警察組織との癒着によって、ジャックフルーツの事件が優先され、誘拐や人身売買、殺人といった凶悪犯罪の捜査があと回しになっているという風刺だ。つまり、カースト制度は撤廃されているはずが、社会システムの上でまだ根深く残っているということが描かれている。

 カースト問題を抱えるインド特有の感覚にも感じるかもしれないが、本作で描かれている問題は、世界中のどこにでもある、目に見えない世の中の支配構造そのものでもあるのだ。

 サニヤー演じる警部補マヒマは、巡査ソウラヴと恋人関係にあるが、男女のパワーバランスとしても、役職としてもソウラヴよりも“上”。ただ、カーストだけは“下”であることを、ソウラヴの父親にも、職場の上司たちにもバカにされている。ソウラヴ自身はカーストなど関係ないと思っていながらも、根底にある差別意識がたまに顔を出すことがある。

 カースト問題は差別する側だけの問題かというと、実はそれだけではないのかもしれない。カーストを理由に虐げられている側の認識も含めて、カーストに対しての意識を国全体(都会も田舎も関係なく)で変えていかないといけないのだ。

 本作で描かれているさまざまな問題が、「教育でカーストを撲滅しよう」という言葉につながってくる。

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